米老舗百貨店ノードストロームの至ってシンプルな権限委譲の鉄則

基調講演のテーマは、『エンパワーメント(権限委譲)』

毎年1月に発表される『アメリカで最も働きたい会社100社』のランキングは皆さんご存知でしょう。その評価機関であるGreat Places to Work Instituteの定例カンファレンスが行われました。

基調講演の一番バッターは卓越した顧客サービスで知られるアメリカの百貨店ノードストローム。ノードストロームといえばあのザッポスがお手本にした会社としても知られています。

社長のブレイク・ノードストローム氏は『エンパワーメント(権限委譲)』というテーマで熱っぽく語っていました。

 

「顧客第一」を軸とする老舗百貨店、ノードストローム

ノードストロームといえば、1901年創設の老舗です。

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ワシントン州シアトル市に靴の専門店として始まり、今日では米国32州とカナダに百貨店117店舗、アウトレット148店舗を運営し、6万人超の従業員を擁しています。

創設から113年が経った今日でも、ノードストローム一家が株の25%を保有するというファミリー・ビジネスですが、その社風は「質実剛健」そのものです。

「ノードストロームでは、すべてが『顧客』に始まり、すべてが『顧客』に終わります」とノードストローム氏は語ります。

「個々の従業員がお客様のためにベストを尽くすこと、そして、顧客や同僚に対して、自分が人にそうして欲しいと望むようなやり方で接すること」

 

コア・バリューが可能にする権限委譲

この二点を従業員誰もが守るべき黄金律として、それを守りさえすれば、すべての判断は個々人の裁量に任されている。これがノードストロームにおける「権限委譲の原則」だといいます。

同社の従業員ハンドブックの第一条は「最良の判断を用いよ」。そして第二条は「第一条に帰れ」。・・・ジョークのような話ですが、先に述べた「お客様のためにベストを尽くす」と、「自分がされたいように人に接する」という黄金律を守りさえすれば、あとは個々の従業員の判断にすべてを一任する。それに尽きるということです。

「もし、(従業員ハンドブックに)それ以上のことを盛り込もうとすれば、どんなにページ数があっても足りなくなってしまう」と、ノードストローム氏は言います。

これをコア・バリュー経営の考え方に照らして言い換えれば、「問題や課題に具体的にどう対処するか」を個人の自由な発想に任せるために「コア・バリュー(中核となる価値観)」という基本ラインを設けるということです。ノードストロームにおいては、「お客様のためにベストを尽くす」と、「自分がされたいように人に接する」がコア・バリューとしての役割を果たしているといえるでしょう。

人というのは根本的にイレギュラー(反規則的)な生き物であり、すべての顧客サービスのシチュエーションをパターンにあてはめ、ルールやマニュアルで処理しようとするのがそもそもの間違いなのです。人や事情によっても千差万別な顧客サービスの問題には、顧客接点に立つ個々の創造性で対処するのが最善の方法だといえますが、コア・バリュー経営はそれを可能にするための経営手法であるといえるでしょう。