スモール・ジャイアンツ・イン・ジャパン、伊那食品工業株式会社の塚越会長にお会いしてきました!

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙にも紹介された『海藻センセイ』。先の出張で、『かんてんぱぱ』で知られる長野の伊那食品工業株式会社を訪れ、会長の塚越寛さんにお会いしてきました。

塚越寛会長といえば、「年輪経営」。米ウォールストリートジャーナル紙2015年9月1日付の記事の中でも「日本で最もパワフルな経営者たちがアドバイスを求めにいく『海藻センセイ』」というタイトルで紹介されています。

ご著書『リストラなしの「年輪経営」』の中で、アメリカ型の経営手法をかなり厳しく批判しておられましたが、拙著『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業の、シンプルで強い戦略』を読んでくださり、「コア・バリュー経営」に対しても厚い共感と支援の言葉をいただきました。

経営者としての「四八年間、連続増収増益」「二〇年間、会社が嫌で退社した人間はゼロ」という驚くべき実績を基盤に、自社で実践しておられる経営の考え方・やり方を発信し、大・小、規模を問わず幅広い企業と経営者にインパクトを与えているほんとうに立派な方で、私の言葉に丁寧に耳を傾けてくださる姿勢にもつくづく頭が下がる思いがしました。

IMG_2300_塚越寛氏

利益はウンチ

突然ですが、塚越さんは「利益はウンチだ」と言っておられます。ウンチを出すことを目的に生きている人はいない。でも、健康であれば毎日自然と出てくるものである。だから、「ウンチを出そう」と思うのではなく、「健康な会社をつくろう」と考えればよい、とおっしゃるのです。

この衝撃的な言葉は、私の肚の中にストンと落ちました。ビジネスの世界にいると、どうしても「利益優先主義」になってしまいがちなものです。前著『ザッポスの奇跡』の関連でほうぼうで講演を行っていた際に、たびたび、「ザッポスの利益は微々たるものじゃないか。『良い会社』とは言えない」とのコメントを受けることがありました。そのたびに、「利益というのは、健全な経営の『結果』として生まれるものであって、『利益を上げる』ことを事業の目的にすべきでない」とお話してきましたが、それでも納得しない人がいるものだなあと薄々感じていました。「利益はウンチ」という塚越さんの説明をきいて、なるほどこれはよくわかるなあ、「我が意を得たり」と感じたのです。

会社は社員を幸せにするためにある

塚越さんは「会社は、社員を幸せにするためにある」という考え方を軸に、会社を経営しておられます。利益は貯めるものではなくて、「社員の幸せ」を増やすためのものと考えて運用しておられるのです。だから、「四八年間、連続増収増益」よりも、「二〇年間、会社が嫌で退社した人間はゼロ」のほうに誇りをもっているというのです。まさしく、アメリカの「スモール・ジャイアンツ(小さくても偉大な企業)」にも共通した考え方です。

これは、伊那食品工業の本社を訪れると一目瞭然です。「かんてんぱぱガーデン」という、社員でなくても誰もが入れる「公園」となった敷地は、どこもかしこも塵ひとつなくぴかぴかなのです。トイレも「便器に服を押し付けても大丈夫」と言われるくらい掃除が行き届いています。社員が「快適」と思える環境づくりに心を砕いておられることと、「皆の会社は皆で清潔に保とう」と、社員の皆さんが会社を大切に思う気持ちが伝わってきます。

IMG_伊那食品、お掃除の表示_2256

私が伊那食品工業を訪問して、そして、塚越会長のお人柄に触れて、見聞きしたこと、感じたことのすべては、とても素朴なものでした。その素朴さの中に、尊い真実があると感じました。本質を突くもの、筋の通ったものは強いのだとも。

「いい会社」をつくろう

ご著書『リストラなしの「年輪経営」』の中で、塚越さんも書いておられますが、人はみな幸せな人生を送るために生きています。それは言い換えれば、ささやかでも安定した人生です。メディアは事業に成功して億万長者になった人や、急成長している企業ばかり好んで取り上げます。しかし、その陰で、日本の国の原動力となっているのは、地道な活動を通して経済の基盤を支えている中小の会社さんたちです。

IMG_2304_塚越寛氏、石塚しのぶ

「ブラック企業」ばかりが話題になる昨今ですが、働く人は働く人で「搾取されるのではないか」とビクビクし、管理者は管理者で「ブラック企業と糾弾されるのではないか」とおどおどしながら会社で一緒に生活している。そんな「疑惑と牽制」に満ちた世の中は寂しいものです。誰も幸せになりません。塚越さんの「年輪経営」、アメリカの「スモール・ジャイアンツ」、そして「コア・バリュー経営」のような考え方が広まり、実践されて、社員や社会の幸せを第一に考える「いい会社」が例外ではなくなることで、信頼溢れる世の中を取り戻すお手伝いをしていけたらいいなあと感じた、非常に有意義な一日でした。