ザッポス躍進の秘密は「コア・バリュー」:トニー・シェイの来日講演から(その1)

シャイな中にも揺るがない自信と情熱を秘めたトニー・シェイのスピーチ

11月21日(月)に東京で開催したチャリティ講演のサマリー・シリーズ。今日はその第二回で、ザッポスCEOトニー・シェイの講演について、私自身の感動や気づきを書いてみたいと思います。

まず、滑り出しから感じたのは、「トニー、スピーチがうまくなったなあ」ということ。

今まで何度もトニー・シェイのスピーチを聞いていますが、東京講演の際のスピーチは、トニーもいつになくリラックスした感じで、それでいてとても意気がこもっているように思えました。

思い返せば、私とトニーの出会いも「スピーチ」だったのですね。2008年5月に、ラスベガスで開催されたカンファレンスでトニーの話を聴いて魅了されたのです。

当時のザッポスやトニーは、アメリカでもまだ「知る人ぞ知る」で、トニーにしても落ち着きの中にも初々しさが漂っていました。ただ、それと同時に、シャイで控えめな人なのに、底知れない自信と情熱を奥に秘めていることが一目でわかって、これが彼のカリスマなのだと思いました。

今回の講演では、しょっぱなからジョークを飛ばしたりして、オーディエンスの笑いを誘っていました。「スピーカーがひとつのセンテンスの中で英語から日本語に切り替えたら、同時通訳の人はどうするんだろう?」なんて疑問を投げかけて、英語と日本語で交互に数字を数えたりしていましたね。

さて、講演内容のハイライトですが・・・。

マーケティングの代わりに顧客サービスにお金をかける

右肩上がりのグラフを背にトニーが言う言葉は、

トニー・シェイ「ザッポスの成長の原動力は『顧客サービス(エクスペリエンス)』。心に残るサービスを受ければ、また買いたくなるし、人に話したくなる。つまり、優れたサービスはリピート購入を生み、新規顧客を生む。しかも、口コミはタダ」

この、「口コミはタダ」というのがミソなんですが、少し後に、トニーはこういうことも言っています。

「ザッポスでは、普通の会社がマーケティングに費やすお金を、代わりに顧客サービスに費やしているのです」

「タダより高いものはない」という言葉がありますが、ザッポスでは顧客サービスに莫大なお金をかけています。

それは、「心に残るサービス」「突出したサービス」を提供するには、「普通に良いサービス」ではまったく不十分だからです。

まず、唯一無二の「仕組み」がなくてはならない。ザッポスがやっているように、お客さんができるだけ早く商品を受け取ることができるように、フルフィルメント・センターを24時間年中無休で稼動させる、また、出来る限りUPSの空輸サービスを使って、発注の翌日に商品が届くようにする。

また、お客さんが質問や問題があるときにいつでも対応できるように、コンタクトセンターも24時間年中無休で働く。コンタクトセンターのオペレーターが目 指すのは、「一人ひとりのお客さんとパーソナルかつエモーショナルなつながりを築き」、「お客さんを満足させる」ことだから、それを達成するためなら何時 間話していても構わない(最高記録は8時間23分)・・・。

これらのことをすべてお金に換算したら、普通の経営者の感覚だと卒倒してしまうような莫大さだと思います。

さて、それでは「仕組み」がありさえすれば「心に残る」サービスが提供できるかというと、そうでもありません。

「お客さんに喜んでもらいたい」、「お客さんに幸せを届けたい」・・・、顧客と触れ合うすべての人たちにそういった「心」がなければ、真の意味でお客さんの心を動かすことはできないでしょう。

トニーの講演風景

最優先事項は「企業文化」であり、「コア・バリュー」

その「心」の部分を育てるのが、「企業文化」であり、コア・バリュー。それが、サービス業においては経営の中核にあるべきなのです。トニーも、「ザッポスでは、『企業文化』が経営の中核だ」と言っています。

また、
「ザッポスにとっての最優先事項は、『顧客サービス』ではなく、『企業文化』です」
と、トニーは言います。

顧客サービスは重要だけれども、それは基盤ではない。基盤はあくまで「企業文化」であって、ザッポスのコア・バリュー(社員すべてが共有する価値観)のひとつを例に挙げると、『サービスを通してWOW(驚嘆)を届ける』というコア・バリューが社員全員で共有され、会社の隅々にまで浸透しているからこそ、「他社との比較を許さないサービス」が可能になる。

会社の基盤であり、優位性の源である「企業文化」だから、妥協は許さない。「企業文化(コア・バリュー)」にフィットしていない人は雇わないし、入社直後から4週間をかけて企業文化とザッポス流のサービス魂を心身に叩き込む。その研修期間に、「ザッポスに合わない」人がいたら、4,000ドル出してもその人にやめてもらう。

みんなでカルチャーを共有し、仲間意識を育む媒体としては、「カルチャー・ブック」や「ツイッター」がある。「カルチャー・ブック」は年に一度、有志社員の投稿を募り、ザッポスの企業文化やコア・バリューについて思うところを自由に書いてもらう。投稿されたものはすべて残らず掲載され、誤字・脱字以外は編集も校正もされない・・・。

これらのことは、私も今まで何度も聞いて、知識としては知っていたことですが、やはりトニーの口から久々に聞いて、彼に初めて出会ったときの感動を呼び起こすことができました。

口先だけで実行に移せなかったり、移しても中途半端な会社が多くある中で、「信念をもち、とことんまでやる」ことが、やはりザッポス(=トニー・シェイ)の成功要因であり、すごさだと思います。

(残りは次回に続きます。)