ザッポスの成功が立証する、「感情」という動力: チャリテイ講演 in Tokyo、トニー・シェイの講演より(その2)

こんにちは、石塚です。

間もなくクリスマス。そして、とうとう一年の終わりが目前に近づいていますね。

11月のイベントについて、まとめブログをもっと早くに終わらせる予定だったのですが、数本のプロジェクトが同時に立て込んで、今日に至ってしまいました。11月21日のイベントの際に、ザッポスのトニー・シェイが話してくれたことについて、その内容をまとめるというよりは、2011年の終わりということで、今年のまとめも兼ねて、「今、アメリカの(そして日本の)市場で起こっていることは、こういうことじゃないかな」、「2012年には、こんなことが期待できるんじゃないかな」ということを書いてみたいと思います。

トニー・シェイのスピーチ

スキルではなく、心を磨く
ザッポスに関する本(私の著書である『ザッポスの奇跡』でも、トニーの著書でも)を読まれた方は、もうよくご存知だと思うのですが、ザッポスの社員は、入社直後に4週間の研修を受けます。その研修の際に、役職や職種に関係なく、すべての社員が、コンタクトセンターでの顧客対応の特訓を受けるのです。その背景にあるのは、「徹底した顧客サービス(エクスペリエンス)志向の会社をつくる」ということです。

そうするためには、ザッポスならではの顧客サービスの魂を社員に植え付けます。「顧客対応のスキル」を教えこむのではなく、「顧客のことを真剣に思いやる心」を磨くのです。もとより、ザッポスでは、入念な面接のプロセスを通して、「顧客サービス志向」の人だけを雇っています。人が好きで、人を喜ばせたいという心(原石)を既に持っている人を雇い、それをぴかぴかに磨き上げる、それが、入社直後の研修の役割なのです。

幸せを届ける会社
講演の中で、トニーはきっぱりと言っています。「ザッポスの使命は、幸せを届けることです」。そして、ザッポスでは、その「幸せ」を受け取る対象を、顧客だけではなく、社員や取引先、そして社会全般にまで広げています。そして、その動機は、まさしく「人を幸せな気持ちにさせるため」なのです。決して、「もっと買ってもらうため」が動機になっているのではありません。

優れた顧客サービスについては、いろいろな本が書かれています。しかし、これらの本の多くが焦点を置いているのは、「より多くの顧客にリピート購入してもらうため」「口コミしてもらうため」「売上を上げるため」顧客サービスをよくする、ということです。

ザッポスでは、これとはまったく異なる姿勢をとっています。ザッポスが目指しているのは、あくまで、「人に幸せを届ける」ことであって、その副産物として、「リピート購入」や「口コミ」や「売上」がついてくると考えています。このふたつは、似ているようでいて実は大違いです。

先に述べたのは、「サービスのROI」という考え方です。「優れたサービスを提供することで見返りを得る」という考え方をするとどうなるかというと、「見返りがない」と判断した途端にサービスの提供をやめることになります。例えば、たくさん買ってくれる人を「優良顧客」と定義して、サービスに差をつけるとか、そういうことが起こります。この発想がそもそもザッポスにはないのです。実際に靴を買ってくれる気がなさそうなお客さん相手でも、その人を「ハッピーにするため」に必要とあらば8時間半も電話につきあったりします。「ROI」という発想だったら到底できないことですよね。

トニー・シェイのスピーチ

感情という動力
すべての会社がザッポスの真似をしなくてはならないというわけではないし、真似しても優位性にならないと思います。そこを十分よく理解していただいた上で、強調したいことは、「人類の歴史の中で、『感情』は常に大きなドライバー(動力)であったし、これからのビジネスでは、『感情』が最も大切な戦略的資源となる、ということです。」

社員の感情、お客さんの感情、パートナーの感情。ポジティブな感情が集まれば、そこに大きな動力が生まれます。昨今、話題になっているソーシャル・コマースも、SNSを利用してモノを売るか否かが焦点になるのではなく、人の「感情」が動力となってモノ/サービスが売れる、ということが焦点ではないかと思っています。2012年に追求していきたいテーマのひとつです。