天下のウォルマートも苦戦する「アマゾン・ファクター」

米国で第二位のブックストア・チェーン、ボーダーズが会社更生法による保護申請をしたことは、皆さんご存知でしょうか。

会社更生法というと聞こえはいいのですが、事実上の倒産です。米国のブックストア・チェーンといえば、ボーダーズだけではなく、業界トップのバーンズ・アンド・ノーブルも財政難で、二者とも買収を検討したりなどしていますが、どうしても買い手が見つからない。「書籍販売」という市場がアマゾンに席巻されてしまった今日では、店舗という物理的アセット・へビィな業態には、皆怖くて手が出せないというのが現実でしょう。

業界第二位でも倒産。恐ろしい世の中になったものだな・・・とつぶやいていたら、ふと、「どこかで聞いた話だ」とある種の既視感が襲いました。

思い返せば、電化製品チェーンのサーキット・シティが会社更生法の申請に続き、「解体」の憂き目を見たのは二年前の2009年初頭のこと。あの時も、私も含め米国流通の研究者たちは、「業界第二位でも倒産するご時世か・・・」とため息をついたのです。

当時、サーキット・シティは年商1兆円超の会社。それでも倒産を免れませんでした。「年商1兆円でも安泰ではない・・・」。解体のニュースに、米国の流通業界も大きく揺れました。

ところで、かつての「業界第二位」であるということの他に、この二社の共通項は何だか、皆さんおわかりになりますか。

種を明かせば、二社とも、「カテゴリー・キラー・キラー(カテゴリー・キラー殺し)」であるアマゾンの犠牲になった企業であるということです。

「世界最大のブックストア」を目指して1994年に設立されたアマゾンは、今日では、書籍、ミュージックCD、DVDなどの「メディア・プロダクト」のみならず、複数の商品カテゴリーを横断し市場シェアをむさぼる「オンラインの巨獣」となっています。

もともとの同業者であるボーダーズやバーンズ・アンド・ノーブルがその影響を真っ向から受けていることは言うまでもありませんが、サーキットシティやベストバイなどの電化製品チェーン、そして、過去に遡ればトイザラスやFAOシュワルツなどの玩具チェーンも、アマゾンとの激しい価格競争に苛まれてきました。

そして、本日の報道によると、なんと、天下のウォルマートも無傷ではないというのです。

ウォルマートの業績発表を見てみると、米国内の既存店舗売上は過去二年間連続で減少傾向にあります。そして、その要因のひとつは、「価格リーダーシップの揺らぎ」であるというのです。

「エブリデイ・ロウ・プライス(EDLP)」という革新的な戦略で、同社を「小売業の王者」として育て上げたサム・ウォルトンが聞いたら、さぞかし嘆くことでしょう。

アメリカの大手金融会社ウェルス・ファーゴが行ったアマゾンとウォルマートの価格比較スタディによると、複数商品カテゴリーを横断したウォルマートの平均価格は、アマゾンに比べて19%ほど「高い」という結果が出たということです。勿論、この数値は、「アマゾンの顧客はセールス・タックスと送料を払わないものとして計算する」ということが前提となっているようですが。しかし、送料を考慮に入れて計算しても、両社の間には依然として9~10%程度の価格格差が存在するということで、これが、「ウォルマート=価格リーダー」という神話をもろくも打ち砕くものであることは明らかです。

先ほど、「カテゴリー・キラー・キラー」という言葉を出しましたが、アメリカの80年代は、「カテゴリー・キラー」という新業態や、ウォルマートなどのマス・ディスカウント・ストアが開花した時代。豊富な品揃えと低価格を武器に、多くのパパ・ママ・ストア(個人店舗)を倒産に追い込みました。「天下無敵」と思われたカテゴリー・キラーも、時代の流れには勝てず、アマゾンのようなまさに「ミュータント的プレイヤー」を前にビジネス・モデルの見直しと自らのパラダイム・シフトを余儀なくされている・・・。「世界最大の小売業者」もあぐらをかいてはいられないのだ・・・ということを改めて認識させられたニュースでした。