ウォルマート対アマゾン:容赦ない抗争の行方は・・・

ウェブの巨獣、アマゾンにウォルマートが宣戦布告
「もし、『ウェブにおけるウォルマート』があるとしたら、それは、ウォルマート・ドット・コムだ。」
これは、他ならぬウォルマート・ドット・コムのCEO、ラウル・バスケス氏の言葉だという。近年、米国のビジネス・メディアでは、「ウェブにおけるウォルマート=アマゾン」という見方が日に日に強まっていたが、その騒音を打ち消すような挑戦的な発言。「我々のゴールは、品揃え、ビジター数ともに、世界最大のウェブサイトになること」と続けた。
米国時間10月15日、話題の新刊10冊を巡り、ウォルマートが仕掛けた価格抗争に対して、アマゾンが間髪を入れず迎撃、同日の夕方までに、ウォルマートがさらなる値下げで反撃するという白熱戦となった。通常の小売価格が30ドル以上するハードカバーの新刊を卸値を大きく下回る10ドルで売り出すということで始まった競争は、現在はウォルマート、アマゾン両社ともに9ドルを最低価格として落ち着いている。
しかし、ウォルマートは、「ウェブ上のロウ・プライス・リーダーとしての地位を誇示するためなら、どこまでも低価格を追及する」と、徹底抗戦の意図を表明。「世界最大のリテーラー」と「オンラインの巨獣」の一騎打ちは、どうやらまだ当分は決着がつきそうにない。
今回の価格抗争は、たまたま、書籍というカテゴリーを巡ったものだが、ウォルマートとアマゾンの競争の本質は、「書籍カテゴリー」だけを問題にしたものではない。アマゾンも、ウォルマートも、「世界最大のブックストア」になりたいわけでは決してないのだ。
米国の小売市場では、天下無敵の地位を築き、抗う競合をいとも容易く蹴散らしてきた「ベントンビルの巨人」、ウォルマートが、今、本気でアマゾン転覆を企てている。それはなぜか。アマゾンが、近年、顧客のマインドシェアを奪い、ウォルマートの縄張りまで着々と攻め込んできているからだ。
ウォルマートは、「世界最大のリテーラー」。その事実は明白だが、アメリカでは、「ウェブ」と言われて、真っ先に、「ウォルマート」を思い浮かべる人はまずいないだろう。「ウェブ」と言えば、やはり、「アマゾン」だ
アマゾンは、もはや、「世界最大のブックストア」ではなく、「世界最大のウェブ・リテーラー」としての確固たる地位を築くことに成功した。「アマゾンに行けば、欲しいものが必ず見つかる」、しかも、「一番、安いものが見つかるに違いない」という認識が、消費者の頭の中に定着している。創業から10年余りにして、アマゾンは、ウェブ・ショッピングのデファクト・スタンダードになってしまった。
消費者は、ウェブ・ショッピングの「検索エンジン」としてアマゾンを利用する。今年第2四半期には、ジェネラル・マーチャンダイジング・カテゴリーの売上が、元来の主力商品であったメディア・カテゴリー(書籍、音楽CD等)の売上を初めて超過した。
ただのウェブ・ショップではなく、100万を超える中小の販売業者(サード・パーティ・セラー)と買い手を結びつける「マーケットプレイス・モデル」は、従来型の小売の常識を根底から覆す。2008年のデータを見ると、サード・パーティによる販売件数は前年比33%増、販売額も36%増というように、まさに、「凄まじい」勢いで伸びている。
さらに驚くべきことに、米国の消費者向けEコマース取引件数の3分の1が、アマゾンを通して行われているという。消費者のマインドシェアだけではなく、ウェブ上の市場(いちば)のプラットフォームとしての、アマゾンの圧倒的ドミナンスが、この数値からはうかがえる。
アマゾン化するウォルマート
その「快進撃」に、ウォルマートが「待った」をかけようという。今まで、「ウェブ対策で後れをとった」と評されてきたウォルマートは、その後れを取り戻すべく、急ピッチでアマゾン化を進めている。8月末には、中堅ウェブ・リテーラー3社をテナントとして迎え入れ、「ウォルマート・マーケットプレイス」を開設。一挙に100万品番を追加した。また、アマゾンをはじめ、Web2.0企業の特徴であるコミュニティ機能にアイデアを得、ウォルマート・ドット・コム・サイト上で、顧客と顧客、あるいはウォルマート社員が、質問を投稿したり、質問に回答したりできるコーナーの展開にも余念がない。
そして、今度は、十八番である「低価格攻略」で、アマゾンに揺さぶりをかけようとしている。9月、10月といえば、アメリカの消費者がそろそろクリスマスの買い物を考え始めるころ。消費者の価格感度が最も高まる時期である。しかも、世界大恐慌以来の、大不況の只中ときている。ここに、書籍をはじめ、諸カテゴリーに圧倒安値を投入しようというのがウォルマートの思惑だろう。既に、100アイテム以上の玩具を10ドルで販売するというキャンペーンを開始している。
「価格」ではない、競争要因の模索
ウォルマートとアマゾンの価格対決は、過去に考えられてきた「価格競争」の定義を全く無意味なものにしてしまう。かつて、「価格競争」とは、商品カテゴリーで括られた「業界」内で戦われるものだった。しかし、今日では違う。80年代に、「カテゴリー・キラー」という新語を生んだトイザラスも、ウォルマート、そしてアマゾンの攻勢に負け、今ではすっかり影を潜めてしまった。
「価格競争」がハイパー化した今日、「価格」で競えるのは、事実上、ウォルマートとアマゾンの二社だけになった。では、他社はどうすればよいのか。
書籍市場を例にとると、かつて街を賑わせていた独立系の本屋は、ここ10年で淘汰の一途を辿ってきたし、その動きはこれからも加速化するだろう。今日、生き残っている本屋というのは、「コミュニティ」をキーワードとして、購買に限らず、総合的な店舗体験の充実、顧客の帰属意識の創造に努めている店舗である。「コミュニティ」といっても、地域的なものに限らず、趣味、主義、嗜好やライフスタイルなどで括られる、どの「部族」にアピールできるのか、ということを、考え抜いた店舗が熱烈なファンを創出して成功している。売れる仕組みが大転換しているということだ。
「アメリカ」という国で起こっている、「対岸の火事」でも、よその市場の話でもない。ウォルマートとアマゾンの抗争が起こす津波は、間違いなく日本にも襲ってくる。業界、業種にとらわれず、自社にとって、新しい時代の競争の決め手とは何なのか、それを再定義する必要がある。