消耗品の無料配布、すべてのものを媒体化する仕組み

ご存知のように、ウェブの世界の「フリー(タダ)」の仕組みの多くは、広告収入によって支えられている。最近目立ってきているのは、オンラインならぬオフラインの世界でも、広告宣伝が収益モデルのバックボーンになり、商品やサービスがタダで消費者に配布されるという仕組みが続々と誕生していることだ。

例えば、事業所を対象に無料で紙コップを配布している「フリー・ペーパー・カップ」というビジネス。勿論、無料で紙コップを配布しているのがビジネスの中核なのではない。むしろ、通信サービスや宅配サービス、OA機器メーカー等、事業所を顧客対象とするビジネスからお金をとって紙コップの表面に広告を印刷し、その紙コップをタダで配布することによって、「需要側」と「供給側」の仲を取り持つことをビジネスにしている。

事業所で使う消耗品といえば紙コップ。近年、「エコ」が叫ばれ始め、使い捨てカップではなく、「マイ・カップ」の使用を義務づける事業所も多くなってきているとはいえ、まだまだその消費量はかなり莫大なはず。紙コップの表面に印刷された広告は、お茶を飲むたびに否が応でも目に入ってくる。購入に結びつくかどうかはともかく、「刷り込み効果」はバツグンということか。

ここで、もうひとつのキーワードとして浮かび上がってくるのは、「すべてのものが媒体化する」ということだ。情報の出所によりばらつきはあるものの、昨今、一般の成人が一日にさらされる広告/マーケティング的メッセージの数は、アメリカではなんと3,000件といわれる。情報の押し売りに忙殺される消費者たちは、目や耳に入ってくるメッセージを遮断することにかけてはエキスパートになっている。テレビ広告などは最たるものだ。テレビ視聴者の大多数が、CMの時間が来ると待ってましたとばかりにチャネルを変える。素性の知れないDMは開封されずにゴミ箱に放り込まれるし、最近急速に増えつつある「迷惑メール」についても然りだろう。

「タダ」の提供は、その「スポンサー」について、少なからずとも好印象を消費者に対して与える。音楽、ゲームソフト、大学のテキストブック、レンタカー、電話通信サービス、写真現像サービス等など、実にあらゆるものが広告媒体の形をして、「タダ」で消費者に配布されている。日本で誕生した、学生向け無料コピー・サービスの「タダコピ」は、画期的な広告ビジネスのアイデアとして世界的に紹介され、アメリカでも類似サービスがお目見えしている。

広告により支えられた無料商品やサービスの提供、というトレンドは今後まだまだ続きそうだが、もう一段階上に行くと、「タダ」に慣らされた消費者はいったい何に価値を見出すのか、ということをじっくりと考える必要がある。電子メールもかつては有料だったが、今は当たり前に無料化しているように、何に対してだったらお金を払う価値があるのか、という感覚は大きく変わりつつある。また、「タダ」の対極に位置する傾向として、標準をはるかに超える代金を徴収しても、消費者に満足してもらえる、「プレミアム商品/サービス」のビジネスの仕組みにも、大いに注目していく必要がありそうだ。

参考サイト:
タダコピ(日本)