ウォルマートとコストコに見る、不況時の成長戦略

日本でも同様だと思うが、最近、「不況知らず」のビジネスというのがアメリカではよく話題に上る。

「不況知らず」のビジネスといって、真っ先に話題になるのが、「医療」、そして、「結婚」と「葬儀」だ。
景気が悪いからといって、「もう病気にならない」というわけにはいかないし、結婚を取りやめるという人もあまり聞かない。

不況時にも人は結婚するが、それでも、結婚式の経費自体が「不況知らず」なわけではないようだ。アメリカでは、ほんの二年前の2007年には、平均的な結婚式の経費は28,700ドルだったが、今年はそれが29%減の20,400ドルまで落ち込むという。

「倹約」が、今年結婚を控えたカップルの合言葉だ。これに目をつけて、およそ7兆円規模といわれるアメリカのブライダル業界に攻め込んでいる新興勢力がある。世界最大の小売業者、ウォルマートと、日本でもお馴染みのコストコだ。

ウォルマートは、アメリカで90年代に一世を風靡したカリスマ的ライフスタイル・コーディネーター、マーサ・スチュアートとのコラボで、招待状、アルバムなど、安価だけれどスタイリッシュなブライダル・グッズを展開し、従来の「安かろう、悪かろう」イメージを払拭することに成功している。

一方、コストコは、指輪に始まって、招待状、ブーケ、ケーキ、シャンパン、そしてハネムーンの手配まで、「コストコに行けば何でも揃う」というワン・ストップ・ショップのコンセプトで攻める。

いずれも、ブライダル専門店と比べて、25%から85%も割安な価格を提供している。それに、質が劣るわけでもない。もとより、アメリカのコストコは、一般消費者だけでなくビジネス顧客も多いのだ。中小のレストラン・オーナーや、ケータリング業者、イベント・プランナーなどが、コストコを贔屓にしている。彼らいわく、専門店で買おうが、ディスカウント・ストアで買おうが、質に大差はないのだという。

不況時には、顧客の離反が特に起こりやすい。「よりおトクなところ」を探そうと、顧客は目を光らせている。「ちょっと試してみようかな」という浮気心をもつ顧客が多くなっている中、守る側は大変だが、攻める側にはつけ込むチャンスが大いにある。

ウォルマートとコストコは、「ブライダル」という新市場に攻め込み、顧客をなびかせることに成功している。「価格」に誘われて買ってみた顧客が、期待以上のものを手に入れて驚き、満足し、末永いお付き合いが始まればしめたものだ。

自社がまだ足を踏み入れていない市場で、顧客の浮気心に訴えられる市場はないか。不況時だからこそ、じっくり腰を落ち着けて、景気回復時のための戦略を練り、種を蒔くことは大事だ。ただ「安い」だけでなく、「おトク感」をアピールできる売り手なら、市場シェアをひっくり返せる勝算は高い。