見直される「チーム」の意義

「チームワーク」は使い古された言葉だ。面接などでも、「あなたはチームプレイヤーですか」という質問が必ずといってよいほど投げかけられる。だがその意味を本当に理解している人は少ないだろう。

「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがある。これは、ブレイン・パワーやナレッジという角度から、チームの意義を述べたものであるとも解釈できる。一人で考えるよりは、みんなで考えたほうがより優れたアイデアが浮かぶ。ウェブ時代の到来に伴って、「集団の英知」などということも盛んに語られるようになった。

ここ数年において、「戦略的企業文化」という理論を語るにあたり、「個」の力が発揮できる組織づくりの重要性を提唱しているのだが、私はここで、いわゆる「個人主義」や「個人プレー」を奨励しているわけではない。「戦略的企業文化」に基づく組織の中の「個」とは、あくまで、「同じ目的を共有する集団の中の『個』」である。

突出した文化をもつ米国企業を観察していると、いずれも「チーム」のコンセプトによる組織づくりに長けた企業が多いことに驚かされる。先に種明かしをしてしまうと、これは、①「共通の目的と価値観で統一された組織」をより強固なものにしつつ、②集団の中の「個」の裁量権をフル活用させることで「個」の力を最大限に発揮し、③個人の組織に対する帰属意識やエンゲージメントを高めるという仕組みのひとつである。戦略的企業文化のマネジメントにおいては、「チーム」の意義が新たに捉えなおされているといえる。

オーガニック食品マーケットのホール・フーズ創始者ジョン・マッキー氏と
ホール・フーズ・マーケット創始者/CEOのジョン・マッキー氏とカンファレンスにて

例えば、世界最大のナチュラル/オーガニック・スーパー、ホール・フーズ・マーケットでは、各店舗が8から10のチームで構成されている。これは、店舗小売業という業態における意思決定を中央集権型から分散型へとシフトするための工夫である。品揃えや売場づくりに始まり、店舗小売業においては「地域性」に基づくカスタマイズが極めて重要だが、ホール・フーズ・マーケットでは、各店舗、ひいては各店舗の中の各チームがあらゆる意思決定を下す。本部を国に例えるなら、店舗は州、チームは市町村のようなものだ。市は州の法律に従い、州は国の法律に従うが、州や市町村にはそれぞれの地域性に基づくバリエーションがある範囲まで許容されている。

チームは組織に対するプライドや愛着を高めるのにも役立つ。ホール・フーズ・マーケットでは、報奨はチームの功績に対して与えられる。また、新しく入ってくる従業員の場合、仮に面接を経て「入社」が決まっても、チームに受け入れられるまでは真の意味でホール・フーズ・マーケットに所属することにはならない。従業員は自分で働きたいチームを選び、そこで30日から90日間の「見習い期間」を過ごす。その間に、チーム・メンバーは新人の働きぶりや人柄を観察し、最終的にはチームとその個人との相性について「投票」を行う。そして、チームに受け入れられた者だけがはじめて、ホール・フーズ・マーケットという共同体の一員になれるというわけだ。また、チーム・リーダーも、上(本部)が任命するのではなく、チーム・メンバーによって選ばれるという仕組みも、個々の従業員の帰属意識や責任感、オーナーシップの向上に貢献している。

企業は人間の集合体であり、人間は心の生き物である。今まで見落とされてきたこのごく簡単な真実が、近年、経営の考え方に活かされるようになってきた。先に述べたように、「みんなでやれば大きなことができる」、「各自の知恵や才能を持ち寄ればより良いものができる」という機能的メリットのみならず、チームは社会的動物としての人間の心に訴え、より強固な仲間意識を育むことに貢献する。絆とは人と人との間に生まれるものであり、同じ会社に所属するからといって、個人が6万人(ホール・フーズ・マーケットの従業員数)の集団に絆を感じることは難しい。店で肩を並べて働き、成功も難題も共にする「チーム」が、「同僚」というラベルを超えた絆を可能にしている。