これからの企業は、ドラッカーの「社会生態学」に注目せよ

先週のはじめ、マサチューセッツ州ボストン近郊で行われた企業文化のカンファレンスに出席してきた。

オープニングの基調講演では、世界最大のナチュラル/オーガニック・スーパー、ホール・フーズ・マーケットの創設者兼CEOであるジョン・マッキー氏が、企業にとっての「パーパス(存在意義)」の重要性について語っていた。我々の提唱する「戦略的企業文化」の中でもこれは非常に重要(必要不可欠)と考えているので、私自身、我が意を得たり、とうなづきつつ聴いていた。

カンファレンス近年、アメリカのビジネス界では、この「パーパス」ということが盛んに話題にされるようになってきた。「パーパス」とは、従来的に「ミッション」と呼ばれるものとは根本となる考え方が異なる。

「パーパス」というのは、まさに、「社会のソーシャル化」を背景として際立ってきた考え方だ。2005年くらいを境として、各種テクノロジーの発展のおかげで生活者のネットワーク化が大きな規模、そして目覚しいスピードで進んだ結果、社会の透明性が高まり、企業と生活者の間の壁がどんどん薄くなってきた。それが、世界的な生活水準の向上ともあいまって、「社会意識の高い生活者」がもはや「特殊な人たち」ではなく、「生活者のマジョリティ」となってきたわけだ。そして今日、「社会意識の高い生活者」は、「社会意識の高い企業」を求め、社会全体に貢献する明確な目的意識(パーパス)をもち、世に向けて主張する会社を、消費/購買活動をもってして積極的に支持するようになっている。

やや抽象的な言い方をすれば、企業が「何をするか(事業内容)」だけではなく、それを「なぜ(パーパス)、どのように(手段)行うのか」がより重視される時代がやってきたということだ。

私がブログで頻繁に取り上げているザッポス、ホール・フーズ・マーケット、トレーダー・ジョー、サウスウエスト航空、パタゴニアなどはこの筆頭となる企業で、アメリカでは「コンシャス・キャピタリズム(高い社会意識をもった資本主義)」と呼ばれるムーブメントの先端を行く企業である。

スピーチの中で、ジョン・マッキーは「企業文化の出発点はパーパスであるべきだ」と述べた。これは、戦略的企業文化に関する我々の考え方と合致していて、私が提供する講演・セミナーの中でも、コア・パーパス(中核的存在意義)の考え方を話し、時間が許せば参加者にコア・パーパスとして思いつくものをその場で書き出してもらうなどといった演習も行う。

ごく簡単に言うと、コア・パーパスとは企業自身の利害をはるかに超えたものであり、社会に貢献し、生活者に支持されるものでなくてはならない。もっと言えば、会社に働く人たちの心を奮い立たせるものでなくてはならない。

近代経営学の巨人、ピーター・ドラッカーは自らを「社会生態学者」であると定義していたが、この「社会生態学」という考え方が、今、アメリカのビジネス界ではスポットライトを浴びつつある。「自然生態学」が自然界における生物と環境の相互関係を扱う学問であるのに対し、「社会生態学」は社会における人間やエンティティ(企業組織)と環境の相互関係を扱うものである。

「社会生態学者」としてのドラッカーの考え方は、企業やその活動を社会問題に対する解決策として捉えるものであった。つまり、今日、取り沙汰されているところの「コンシャス・キャピタリズム」の考え方をいちはやく先取りしていたわけだ。ドラッカーという人の偉大さをつくづく思い知らされる。

90年代くらいから、「エコロジー」という言葉がもてはやされ始めて、自然環境に優しい企業活動のアプローチがいろいろと模索されてきた。しかし、これからは、「自然環境」から「社会環境」にスコープを広げて、企業の活動を考えねばならない時代が到来する。そういった意味からも、明確な「パーパス(存在意義)」を社会に向け、そして企業の中の働く人に向けて宣言し、忠実に実践できない企業に先はないだろう。