ザッポスがフルフィルメント業務をアマゾンに移譲、その真相は?

ザッポスがケンタッキーのフルフィルメント業務をアマゾンに移譲するという。合計120万平方フィートにも及ぶ膨大な施設も、3,000人を超える従業員も、丸ごとだ。

CEOのトニー・シェイが米国時間の昨日(6月6日)づけで従業員に送ったメールがブログに掲載されていて知ったのだが、正直ショックを受けた。ザッポスの反骨精神とイノベーションの象徴であるケンタッキーのフルフィルメント・センター(通称KYウェアハウス)には、昨年の1月に訪れた。その時の感動がまだ記憶に新しい。

ザッポスのフルフィルメント・センター概観

その際、ザッポスのフルフィルメント業務のいわば「育ての親」であるクレイグ・アドキンズ氏に話を聞いた。当時、ザッポスのセンターは倉庫二軒分のスペース(計110万平方フィート)を使い切り、三軒目への拡大を検討していた。米アマゾンの靴販売サイトであるEndless.com(エンドレス・ドット・コム)のフルフィルメント代行も既に開始しており、ベルトコンベヤにはザッポスの箱に混ざり時おりエンドレスの箱が流れていた。

ザッポスに入社する以前には軍隊や製造業で業務管理畑のプロとして経験を積んだアドキンズ氏は、ザッポスのフルフィルメント業務がいかに革新的であるかを、まるで自慢の息子について吹聴するような口ぶりで語ってくれた。

その「自慢の息子」をアマゾンに移譲するという。トニーのメールによると、センターを三軒目に拡大するか否かの岐路に立たされた時、既に世界各地で69軒のフルフィルメント・センターを運営しているアマゾンと統合したほうが「経営の観点から見て賢明である」と判断したという。

トニーのメールを読む限り、フルフィルメント業務の移譲はザッポス側の発起により行われたもののように見えるが、真相のほどはわからない。

業務移譲のもうひとつの理由として挙げられているのは、「目前に控えたザッポス本社の移転と、それに伴うラスベガス・ダウンタウン開発にリソースを集中するため」である。2004年に、ザッポスは本社を発祥地であるサンフランシスコからラスベガスに移転したが、トニーは2013年に控えたダウンタウンへの本社移転を、2004年に次ぐ「大躍進」であると定義づけている。「社員にはなるべくダウンタウンに住むように促している。社員が一緒に住み、一緒に働く、大学のキャンパスのようなイメージだ。これが、ザッポスの企業文化をさらに一段上のレベルに押し上げることになる」とトニーは語る。

しかし、ザッポス・ファミリーからアマゾン・ファミリーへと移籍されるケンタッキーの従業員の胸中はどうか。紙の上では職は保証されている。彼らはアマゾンの従業員となり、アマゾンのストック・オプションを貰う。報酬パッケージでみると、現在の5%増しくらいの計算になるという。

でもザッポスとアマゾンの企業文化は相当違う。異なる文化の中で、彼らは今まで通りハッピーにやっていけるのか。

そしてザッポスは、今まで通り、「顧客に幸せを届ける」ためのトータル・カスタマー・エクスペリエンスを管理していくことができるのだろうか。他企業の事例から考えると、答えは「否」か「極めて難しい」ということになるだろう。ファミリー企業とはいえ、バリュー・チェーンの中の主要業務を他社に渡してしまうのだから、一貫した体験の提供は極めて難しい。

また個人的な疑問は、「トニーはいつまでザッポスで舵を取り続けるのだろうか」ということだ。ダウンタウン移転という情熱のはけ口があるうちはよい。しかし、それがなくなった時どうなるのか、彼の未来設計にザッポスの居場所はあるのか、疑問に思わずにはおれない。