アップルとグーグルの一騎打ち:米ホーム・エンターテイメントを制するのは誰か?

グーグルがホーム・エンターテイメント機器を展開するらしい・・・との報道がされて、アメリカではちょっとした話題になっている。

クラウド型ストレージ・サービス、「ドライブ(Drive)」の間近な導入が報道されたのがつい先日。最近のグーグルはサービス/事業拡張に忙しい。いや、グーグルという会社はもとより、新しいアイデアを次々と試験運転しては、スティック(定着)しないものをどんどん切り捨てていくというベータ的メンタリティの会社ではあったのだが・・・。しかし近年では、それがオリジナルな「ネット広告ビジネス」のモデルからの離脱を示唆するものであるからか、特に目立ってみえる。

グーグル

昨年の8月に発表されたグーグルによるモトローラの買収を、どうやら近日中に米司法省が正式に認可するらしいという報道があったのが昨日。発表当時に、「グーグルがついに(携帯/スマートフォンの)『ものづくり』に進出!」ということで大いに業界を湧かせた。そして今度は、グーグル・ブランドのホーム・エンターテイメント機器の開発/販売に乗り出すという。今までアンドロイドというOSの開発に徹し、スマートフォン、タブレット、あるいはTV機器メーカーにそれを「使わせる」という形をとってきたが、ここにきて、「ソフト⇒ハード」、いや、「ソフト+ハード」への大胆な飛躍に乗り出すというわけだ。

ご存知のように、グーグルやフェイスブックのようにいわば「システム開発」に徹するテック企業の強みはその利ざやの高さにある。「ものづくり」に手を出すと、当然のごとく利ざやは犠牲にされるので、グーグルのこの動きに対して警告を発しているアナリストも少なくはない。

「ソフト」と「ハード」をパッケージ化したサービスの展開でビジネス・モデルの大転換を試み、飛躍的な成功を収めた企業といえばあの「アップル」である。アップルはもともとはPCの開発・製造を手がける「ハード」の会社であったが、コンシューマー・エンターテイメント・デバイスであるiPod(ハード)を導入した際に、それに併せてデジタル・エンターテイメント・マネジメント・システムであるiTunes(ソフト)を世に紹介し、また流通の仕組みであるiTunesストアまでつくってしまったことで、生活者のデジタル・エンターテイメント・ライフを一手に引き受けるソリューション・プロバイダーとしての地位を固いものとした。

itunes

そして、「iPodというハード」を管理するには「iTunesというソフト」が必要という排他的構造を作り出すことで、供給から消費までのプロセスをコントロールしたことが、アップルのさらなる成功につながったことは言うまでもない。さらに、今日ではiTunesは、iPodだけではなくiPhoneやiPadなど他のデバイスのマネジメント・ソフトとしても確立されている。

業界情報筋の噂によれば、ホーム・エンターテイメント機器の中でもグーグルが初めにフォーカスを置くのは「オーディオ機器」であるらしい。つまり、グーグルのクラウド型ミュージック・サービスから、家庭のワイヤレス・ネットワークを通じてグーグル・ブランドのオーディオ機器に音楽をストリーミングする。スマートフォンやタブレットなどアンドロイド搭載の携帯端末がリモコンの役割を果たすとも言われているが、詳細はまだ定かではない。

これが、アップルの成功を模倣する試みであることは誰の目にも明らかだ。現在、グーグルとアップルはあらゆる市場でぶつかっている。昨年からグーグルが手を染め始めたデジタル・コンテンツ・サービス(ミュージック、映画、電子書籍)、そして先に触れたモトローラの買収により、スマートフォンの市場でもいずれは衝突することになる。もちろん、これらの分野においてはグーグルはまったくの新参者であり、今のところアップルに圧倒的な軍配があがっている。

「ソフト+ハード」のビジネス・モデルでアップルとグーグルの一騎打ち、ということになるが、不気味なのはアマゾンの存在だ。「ハード」という面からいえば、アマゾンは昨年末のキンドル・ファイヤーのリリースによってデジタル・エンターテイメント・デバイスの市場に勢いよく討って出た。「ソフト」面では、電子書籍流通では押しも押されもせぬドミナント・プレイヤーであるキンドル・ストアをもち、デジタル・ミュージックや動画など他のコンテンツ・サービスのプッシュにも余念がない。

テック(デジタル)ビジネスにおいては、「聖域」はない。誰もが隣人の縄張りに今日にでも踏み込んでいける世の中だ。第二四半期に上場を控えるフェイスブックも、生活者/インフラ/パートナーシップの三つの点から、デジタル・エンターテイメントの主要プレイヤーになれる潜在性を十分秘めている。米国デジタル・エンターテイメント業界は、今後、アップルとグーグルの一騎打ち、ならぬ三つ巴、四つ巴の戦場になっていくのだろうか。