eBay(イーベイ)が試みるウェブ×ローカル戦略

イーベイが実践するLO(ローカル)
「ネット」オークションとして地位を確立したイーベイとしては、かつては、「ネット上での売買をファシリテートする」ことに意義があった。しかし、昨今では、最終的に売買が起こるのはどこかに関わらず、ネットとリアルの橋渡しをすることに新たな意義を生み出している。

昨年12月、イーベイは、ローカル店舗の在庫情報のウェブ検索を可能にするサイト、Milo.comを買収したが、現在、イーベイ・サイトへの同機能の統合を着々と進めている。イーベイで商品検索すると、イーベイ内で売られている商品と並んで、最寄の店舗の在庫および価格情報が表示される(勿論、在庫情報が提供されるのはこのプログラムに加盟している店舗に限られたことだが)。

このサービス、現在はベータ版のため、加盟店舗に無料で提供されているが、ゆくゆくはリスティング広告料を徴収する考えだろう。アマゾンが自社サイトのマーケットプレイスに出品していないベンダーにも広告機会を提供する「アマゾン・プロダクト・アド」を見てもわかるが、アマゾンやイーベイなど絶大な集客力をもつマーケットプレイスは、もはや販売の場であるだけではなく、有効な広告プラットフォームでもあるのである。

イーベイにこだわらず、アメリカの流通市場全般についていうと、最近、このLO(ローカル)を巡る動きがますます活発になってきた。昨年あたりからますます注目を浴びてきているフォースクエア(Foursquare)やフェイスブック・プレイス、そしてフェイスブック・ディールの位置情報サービス、そしてその他数々のショッピング・アプリは、テクノロジーに明るい若者層を中心に確実に普及し、アメリカの生活者の消費行動を大きく変えつつある。

スマートフォンでフォースクエアのアプリを開くと、「近所に28件のスペシャル(バーゲン・ディール)があります」などといった表示が出てくる。「初めてチェックインする人には10%割引」といったようなオファーがリストになって並んでいる。そんなオファーにつられて、行ったこともない店に入ってみたりする。一回体験してみて、そのサービスが気に入れば客はまた利用するだろう。位置情報サービスとからめたディールは、そんな「トライアル購入」を促進する。

フォースクエアの醍醐味のひとつは、「ディスカバリー(発見)」だという。友人の「チェックイン」から、あるいは近所の「スペシャル・ディール」から偶然に新しいお店やサービスを発見する喜び。ネット・コマース・ルネッサンスのキーワードのひとつでもある「セレンディピティ(偶然の出会い)」がここにもある。

また、生活者の中には、より戦略的な目的でローカル・ショッピング・アプリを使いこなしている人々もいる。

去る2010年の年末は、アメリカで「ショッピング・アプリ」合戦が初めて繰り広げられたクリスマス商戦として話題を呼んだ。

ある報道によれば、2010年のブラック・フライデー(11月の感謝祭の翌日にあたる金曜日で、米国の小売業が一斉に大々的なバーゲン・イベントを行う。ホリデー・ショッピング・シーズンの幕開けとされる)に、米国のスマート・フォン利用者の64%が価格比較アプリを使って買い物をしたという。iPhone対応のショッピング・アプリの数自体も、2009年から2010年の一年間で1.5倍に増加した。

ショッピング・アプリ利用の一例。店頭で「これぞ」と思う商品のバーコードをスキャンすると、最寄の店舗の価格を比較して教えてくれる。買い物を終えてしまってから他の店のほうが安かったことを偶然発見してがっかりする・・・などということはもうない。

本質的に「ローカル」な店舗が、ウェブやモバイルを駆使していかに顧客を誘引するか・・・。これを戦略の焦点とする企業もでてきた。80年代、90年代にピークを迎え、今日では零落傾向にあるショッピング・モールの運営会社や、米国家電量販店ナンバー・ワンだが近年ウォルマートやアマゾンにその座を脅かされつつあるベスト・バイなどがその筆頭だ。

どんなにウェブやモバイルを駆使したところで、来店時のショッピング体験そのものが月並みでは顧客の心を掴めるわけがない・・・。その根本を忘れてはいけないが、店舗小売業にとって、ウェブやモバイルがもはや無視できない存在であることは否めない。そして、「ネット企業」にとっても、「ローカル」が無視できない時代になってきた。目指すべきは、「ウェブ」と「ローカル」の融合にある。それを、イーベイの取り組みを見て改めて考えさせられた。