eBay(イーベイ)のソーシャル・コマースへの挑戦

イーベイが実践するSO(ソーシャル)
アメリカの人気男性アイドル、ジャスティン・ビーバーの髪の毛(落札額4万668ドル)、投資家ウォーレン・バフェットとの昼食(落札額263万ドル)など・・・。世にも奇抜なものが売れるオークション・サイトとして誉れ高いイーベイだが、最近はそればかりではない。米ネット通販有数のトラフィックを活かして、ファッションの領域にも積極的に進出してきている。今流行りの「ネット・プライベート・セール(ネット上で限定顧客を相手に限定品を限定期間内に売り払うセール・フォーマット)」を取り入れた『ファッション・ヴォウルト(「ヴォウルト」は英語で、「金庫室」の意)』というマイクロサイト。初期のイーベイをよく知る私のようなものだと、あまり、「イーベイ=新品」とか、「イーベイ=ファッション」とかいうイメージはないのだが、イーベイではなんと3秒に一足の靴が売れるらしい。

イーベイのスピーチ思い返せば今回のカンファレンスでは、ヴィンテージ・アパレル専門のネット通販サイトを運営している女性企業家のセッションがあった。ロサンゼルスに住む、恐らく年は20代半ばの若い企業家で、「私のビジネスはイーベイとマイスペースから始まった」と語っていた。現在でもEベイから仕入れた商品を自分のサイトで転売したりしているらしいが、「イーベイで5ドルで買った商品でも、ちゃんとしたモデルを起用してカッコいい写真を撮れば50ドルで売れる」と話していたのが印象に残った(そんなことを軽々しく言って良いものかどうかは別として・・・)。

ファッションといえば、これほどソーシャルな商品カテゴリーも他にない。ファッションとは、自分自身を表現する媒体であるばかりでなく、他者との仲間意識を表現したり、他者の自分への評価を大きく左右したりもする。

週末に街に出ると、楽しげにお喋りをしながら買い物に興じている女性たちの姿に出くわす。試着したところをお互いに見せ合って意見を交換したり、良いと思うものを薦めあったり・・・。時には友達同士、時には母と娘の姿もある。また、彼氏を連れて買い物に着ている女性もいて、試着室の外でカウチに座って手持ち無沙汰そうにしている男性の姿を見ると微笑ましく思う。

ファッションというのは、着る当人が「良い」と思うだけでは不十分で、やはり他人の目から見て、「似合っている」と評価されることが重要なものなのだ。だから、他人の意見を聞きながら買い物をすることが必要であり、また楽しみでもある。

イーベイのプライベート・セール、ファッション・ヴォウルトファッション・ショッピングのこういった特性を理解し、Eベイでは、「ソーシャルな買い物」を可能にする機能を次々と取り入れている。例えば、フェイスブックのウォールに自分が良いと思った商品を載せ、友人の意見を聞いたり、投票を募ったりできる機能。これは、フェイスブックにモバイルでアクセスし、友人や家族と四六時中「いつもつながっている」生活を送るユーザー層(ソーシャル・カスタマー)が主流化しつつあるからこそ効を奏すサービスだ。近リアルタイムで意見を交換し、まるでショッピング・モールを一緒にブラウズするように、商品の見せ合いっこをし、購買意思を下すことができる。

こういう機能がもう少し普及すると、「彼氏」や「夫」という立場にある男性たちがショッピングのお供として街に駆り出されることは少なくなるのではないかと思うのだが・・・どうだろうか?女性たちが街に繰り出し、ウキウキとお喋りや試着を楽しんでいる間に、男の人たちは家でゴロゴロしたり、ホームセンターで自分の趣味の買い物に勤しんだりすることができるのでは。スマートフォンさえ持っていれば、フェイスブックのウォールを通じて、「これ、どう?」などといったメッセージが彼女や妻から届く。それに返信してあげればいいのだから、こんなに楽なことはない。面と向かったコミュニケーションならいろいろと追求もされるが、携帯であれば表情も見えないから好都合だ。

そんなことを思い巡らしてみたけれども、女性にしてみれば、試着室の外に男性を待たせておいて、ひとつの服を身につけるたびに、「これ、どう?」と聞いてみること自体に、「ソーシャル」な愉しみがあるのだろう。つまり、どんなに「ソーシャル・ショッピング」や「スマートフォン」のテクノロジーが発達しても、試着室の外で手持ち無沙汰に連れを待つ男の人たちの姿はなくならないということになる。