eBay(イーベイ)に見る、米ネット・コマース・ルネッサンス

先月の中旬、米サンディエゴで行われた世界最大のEコマース・カンファレンスに出席してきたのだが、そこで、今まさに力強く波打つ米国Eコマースの胎動を実感することができた。

企業が集まるイベントとしては、大きく分けてカンファレンス(セミナーや講演が中心の会議スタイルのイベント)とコンベンション/エキスポ(展示会が中心のイベント)の二通りがあるが、私が今回参加したこのイベントは展示会もあるもののカンファレンス(会議)が中心。展示会が中心のものなら参加者が一万人を超すものはざらだが、会議を中心としたものとしては参加者が7,000人を超す同イベントはかなり大きなものだ。しかもこのイベント、過去6年間で規模が6倍になっていることから、アメリカでのネット通販の盛り上がりのほどが感じられる。

アメリカのネット通販も誕生からざっと15年余。落ち着くどころか、「ルネッサンス(再生)」とも呼ぶべき盛り上がりを見せている。その要因としては、近年アメリカで盛んに言われているところのSO・LO・MOコンシューマーの台頭が大きいようだ。

SO・LO・MOとは、ソーシャル(SOcial)、ローカル(LOcal)、モバイル(MObile)のことだ。ネット通販が始まった頃、「24/7(年中無休)」が合言葉になったが、「24時間いつでもショッピングができる」という「いつでも」は実現できても、「どこでも」はままならなかった。それが、近年のフェイスブックのようなソーシャル・インフラの整備や、スマートフォンやタブレットPCなどの新しい「パーソナル・デバイス」の普及に後押しされ、購買だけではない、生活のあらゆる場面での「どこでも」化が現実のものになろうとしている。

カンファレンスに併設されたエキシビションの様子また、SO・LO・MOは究極の「ながら買い」を可能にする。友人の近況をチェックしたり、友人と会話したりし「ながら」買い物ができるのがf-commerce(フェイスブック・コマース)の醍醐味だ。アメリカの人気TVドラマ『デクスター』のフェイスブック・ページで展開されて話題となったウォール・ストア(Wall Stores)がこの典型である(今年のバレンタイン・シーズンに臨時で展開されたもので、現在は存在しない)。その名のとおり、ウォール上の書き込みをクリックするだけで、ウォールを離れることなしに購買のトランザクションが完結できる。友人との会話に興じながら、ふと気になったものを手にとり、気に入ったらレジに持っていって支払いを済ませる・・・。リアルのショッピングにはよくあることだが、これをネットの世界に巧みに移行したのが「ウォール・ストア」である。

これも「ながら買い」の一例だが、アメリカのある調査によれば、iPadの利用者のうち70%が、「テレビを見ながら、iPadを使う」という。テレビで見て気になったものをすぐグーグル検索して、気に入れば即購入する・・・という消費行動がそう珍しくもなくなっているそうだ。「iPadなら、わざわざデスクまで歩いていってPCをオンにしなくても、カウチに寝転がったままショッピングできる」という安易さも、iPadの人気を引き金とした「T-Commerce(タブレット・コマース)」の台頭に貢献しているという。

コムスコアの発表によれば、アメリカではモバイル機器の三台に一台がスマートフォンだ。日本でも「スマホ」利用者が976万人に達した。スマートフォンを片手に、「今、どこにいるか(ロケーション)」をベースに最寄の店舗情報を調べたり、比較ショッピングをしたり、友達の意見を聞いたり・・・といった行動が日常的なものになってきている。PCの前にはりついていなくても、まさしく、「いつでも、どこでも」、自分の欲しい情報があちらからやって来る・・・。真の「パーソナル・コンピューティング」が可能な時代になった。

「インフラ+ツール」の発達が、生活者マインドに変革をもたらし、その結果、新しい買い方、売り方が生まれている。売り手にとっては、無限の好機に満ちた、だからこそハードな時代でもある。

生活者の声に常に耳を澄まし、生活者のニーズに応えるべくフットワーク軽く次々と革新を繰り広げる企業こそ伸びていく。反対に、現状に甘んじ、「今までのやり方」に捉われている企業はどんどん時代に取り残され、生活者に見放されていく。

「ネット・オークション」のパイオニアであり、ネット通販初期のアメリカで一世を風靡したEベイは、定価型マーケットプレイスのアマゾンに押され、一時期「落ち目」の感さえあったが、ここにきて前述の「SO・LO・MO」をキーワードに巻き返しを図っている。次回からは、「SO・LO・MO」を巡るEベイの取り組みについて個人的に気になるところを書いてみる。