トップの方針が企業の明暗を分ける

アメリカのオフィス・サプライ業界における二大勢力に、オフィスデポステープルズがある。どちらも年商が1兆円を超えるメガ・プレイヤーだ。オフィスデポは日本にも進出しているので、知っている人も多いだろうが、ステープルズは聞き覚えがないかもしれない。両社とも「スーパーストア」と呼ばれる業態で80年代に登場した企業で、それまで無数の個人店舗が連立していたアメリカの文具業界に、ウェアハウス型の店舗を導入して大変革を巻き起こした。スモール・ビジネスを顧客対象とした店舗販売事業を出発点としながら、デリバリー事業、コントラクト(大企業向け納品)事業、そして消費者向け販売事業にまで手を広げてきた巨大企業である。
2000年代に突入し、アメリカの市場は「顧客主導型」へと大きく転換したが、この転換期にいかに対応できたかによって両社の明暗は分かれた。オフィスデポは横這い、かたやステープルズは二桁台の成長を維持している。私は、これらの会社が誕生した80年代半ばからずっとアメリカのオフィス・サプライ業界の動きを観察してきているが、これほど、「トップの方針が企業の明暗を分ける」ということを実感させる事例は他にない。私の目には、オフィスデポはがむしゃらな拡張主義、ステープルズは「顧客主導」に焦点をおいた徹底主義、というふうに見える。
どんな業界もやがては成熟する。アメリカのオフィス・サプライ業界という成熟した業界において、二桁台の成長を遂げるステープルズはまさに優良企業の典型といえる。トップの方針における研ぎ澄まされたフォーカスと、それを戦略に落とし込んでいく徹底された実践力の重要性については、この二社のこれまでの経緯から大いに学べることがあるようだ。