エンターテイメント業界と流通業界のコラボ・プロモーション

米国の長寿アニメ、The Simpsons(シンプソンズ)を、皆さんはご存知だろうか。
アメリカでは1989年以来TV放映されている超ロングラン・シリーズで、「シンプソン一家」を取り巻くあらゆるハプニングを描きながら、荒唐無稽なストーリーの中にも辛口な社会風刺をちりばめる特異なスタイルで幅広くかつディープなファン層を誇る。・・・ずいぶん昔のことになるが、シンプソンズの知名度がまだ今ほど高くなかったころに、この作品を是非日本に持っていきたいと考え、原作者のマット・グレーニングのエージェントと交渉したことがある。アメリカ側の対応は好意的だったが、日本側の反応が今ひとつで結局話がまとまることはなかったが、そんなこんなで、私個人にも因縁のあるアニメ・シリーズである。
アメリカのセブンイレブンでのシンプソンズを用いたプロモーションそのシンプソンズの映画版が先週金曜日にアメリカで封切りとなったが、その公開前に前代未聞の大掛かりなプロモーションが行われた。北米に7,000軒以上あるセブン・イレブンのうち11店舗が、シンプソンズの中に登場する架空のコンビニ、「Kwik-E-Mart(クイッキーマート)」に改装されたのだ。メーカーが宣伝目的で自社商品をTV番組や映画の中に登場させる「プロダクト・プレイスメント」や、マクドナルドのハッピーミール(子供用のおまけつきミール)に見られるように映画公開にちなんだキャラクター・グッズの販売などはよくある話だが、短期間とはいえ、店をまるごと改装して映画の世界を再現してしまうとは・・・アメリカならではのスケールの大きなプロモーションだと感服した。
北米に11店舗しかないKwik-E-Martのひとつが、たまたま弊社のオフィスの近所に設置されたということで、早速見学に行ってきた。夜、仕事が終わってから、9時過ぎごろに入ったのだが、店の前には長蛇の列、入り口には顧客を誘導する警備員まで出動している。結局、列に並んで待つこと30分以上、店の中に入って見学を終えるまで全工程1時間くらいかかった。店の中には、「ホーマ・シンプソン(シンプソン一家の父親)」の大好物であるショッキング・ピンクのドーナツやコーラ(“Buzz Cola”)が、期間限定で売られており、シンプソンズのキャラクターをかたどった等身大ディスプレイと写真撮影する若い人たちの姿なども見られた。「キャラクター」と「グッズ」と「ファン」が違和感なく「つながって」いることをこれほどまでに実感させてくれたプロモーションは今までなかった。
結局私も、ショッキング・ピンクのドーナツ(“Sprinklicious donuts”)4個入りを会社のスタッフへのお土産に買った。新聞の報道によると、この店舗では、このドーナツを一日なんと4,000個売り切るそうである。・・・残念なことに、期間限定商品のひとつ「KrustyO’s(ブレクファスト・シリアル)」は、完全に品切れで買うことができなかった。
Kwik-E-Martの仮設店舗は7月末までの期間限定で、昨日を最後にもう終わってしまったが、過去に類を見ない刺激的なプロモーションだった。ところで、映画の方は公開早々さっそく見に行ってきたが、アル・ゴアの「An Inconvenient Truth(不都合な真実)」の一場面が飛び出すやら、アーノルド・シュワルツェネッガーが大統領として登場するやらで、相変わらず辛口のユーモアーが楽しめた。日本では2008年春に公開されるというが、アメリカの社会風刺に興味がある方にはお薦めだ。