オーガニック/自然食品市場を騒がすホール・フーズとワイルド・オーツの買収劇

ご存知の方もいると思うが、ホール・フーズ・マーケットはテキサス州オースティン市に本社を置く、世界最大のオーガニック/自然食品スーパーマーケット・チェーンだ。現在、米国、カナダ、イギリスの三カ国で200店舗近くを展開し、年間5,000億円以上の売上を誇る。かつては、「ニッチ・カテゴリー」として認識されていた「オーガニック/ナチュラル」を、「健康志向のインテリ層」や「グルメ志向の富裕層」のライフスタイルに訴えることによりメインストリーム化することに大きく貢献したことで広く知られている店だ。
logo.jpgそのホール・フーズが、宿敵「ワイルド・オーツ・マーケット」を買収することに合意したというニュースが今年の2月に報じられた。ワイルド・オーツは、私にとっては個人的に思い入れのある店だ。今から10年くらい前に初めてワイルド・オーツの店舗を訪ねた時に、それまでのオーガニック/自然食スーパーのイメージを覆すようなセンスの良さに驚き、感動した。ワイルド・オーツに関心を持っていた日本企業のために、同社のエグゼクティブと交渉したこともあった。一方、当時のホール・フーズは地味で、ずっとオーソドックスな感じだったと記憶している。しかし、ホール・フーズがワイルド・オーツをそうとう勉強し、その良さをどんどん取り入れたのか、今ではホール・フーズこそがアメリカの健康志向トレンドの先端を行き、売上の面でも二社の間には大きな差が開いてしまった。
2月の発表以来、FTCが「独占禁止法」を理由にこの買収に「待った」をかけるなど、すったもんだが続いていたが、結局、先日、首都ワシントンの連邦地裁がFTCの言い分を却下し、買収にゴー・サインを出したようだ。「ウォルマートなど大手がオーガニック/自然食カテゴリーに進出してきている中、この買収が市場競争に大きな影響を与えるとは考えがたい」という判断らしいが、私としてはそうすんなり言い切れない。
アメリカのオーガニック/自然食市場を長年にわたって支えてきたのは、独立系店舗やCo-op(コープ)と呼ばれる地域密着型店舗。Co-opは会員の投資(メンバーシップ・フィー)で運営されている店舗で、会員には割引、値引きなどの特権のほかに、年に一度の利益配当が与えられる。これらの店舗は、オーガニックや自然食が「トレンディ」になる以前から、オーガニック/自然食という価値観を信奉する人達のために、地道なビジネスを展開してきた。ホール・フーズとワイルド・オーツという二大チェーンが合体すれば、これらの店舗の存続が脅かされることは間違いなく、私としては本当に残念な、寂しいような気持ちがしている。