Web2.0ライフスタイルの幕開け、そして、ウォルマート時代の終焉

少し前のことになるが、ウォールストリート・ジャーナル紙で、「ウォルマート時代の終焉」についての記事を読んで考えさせられた。ご存知のように、ウォルマートは、アーカンソーというどちらかといえば“obscure(辺鄙)”な地域に端を発するにも関わらず、徹底的な低コスト構造に焦点をあてたサプライ・チェーン、それに基づく低価格提供を武器にアメリカのリテール業を制覇するに至った。しかし、2000年代の半ばを過ぎたアメリカにおいて、ウォルマートがリテール業全般に与える影響力は翳りを見せ始めている。そして、その背景にあるのは、「Web2.0ライフスタイル」とでも呼ぶべき、まったく新しい価値観に基づく新しい時代の到来だろう。

ウォルマートの概観

もともと、ウォルマートをはじめとするアメリカの「ビッグ・ボックス・リテーラー」は、郊外に巨大な店舗を設け、マスメディアにより売り込まれるナショナル・ブランドを豊富に取り揃えることにより、物に飢えた生活者の指示を集めてきたビジネスだ。
しかし、インターネットの普及に伴い、「ウェブ」が消費者の日常生活のセンターステージとしての位置を占めるようになってきたことによって、マスマーケット・カルチャーの価値観と常識はもろくも崩れつつある。
例えば、「店舗」というチャネルを主体として、もとより商品の選択肢に飢えている田舎の住民を対象として事業が成立していた時代には、ウォルマートが提供する14万SKUには圧倒的な説得力があった。週末に、家族みんなで車に乗り込み、高速道路を飛ばして広大なウォルマート・スーパーセンターを訪れる。レタスから洗剤から、ジーンズ、CDに至るまで、数時間をかけてショッピング・カートを一杯にして帰途につく。そういった買い方に感動があった時代もあった。
しかし、ウェブの世界では、14万SKUなんて数値は到底驚くに値しない。アマゾンにしてみても、そのSKUは数百万単位であり、しかも秒刻みのスピードで無限大に増えている。そんな世界観においては、ひとつの「お店」に商品が豊富にあること自体は、何ら差別化の要素にはなりえない。
いかに一世を風靡した企業でも、その繁栄は永遠ではない。GMからトヨタに、マイクロソフトからグーグルに、というように、王者の座の継承は常に行われているのだ。かくいうウォルマートも、シアーズの後釜としてアメリカ・リテール業界トップの座にのし上がった。
これらの王者の興亡に共通している点は、皆、時代の変化を見過ごし、時代の潮流に乗り損ねたことだ。隆盛期には時代の流れを梃子にして急成長してきた企業が、王者の座に安住しているうちにその「勘」を失ってしまうとは、皮肉なことだ。
Web2.0時代という感覚に大きく後れをとってしまったこと、それが、近年のウォルマートの翳りの大きな原因のひとつとなっているように思える。どんな時代にも、生活者のライフスタイルを出発点として、価値提案を築いていくことが、流通業者にとっての差別化の要になる。だから、これからの流通業者は、「Web2.0的ライフスタイル」が一体どういったものであるのかを真剣に突き詰めていく必要があるだろう。