コミュニティ・マネージャーという職業について
コミュニティ・マネージャーは、今、アメリカで最も注目される「新しい職種」のひとつです。アメリカでは、ソーシャル・メディア関連職に特化した求人サイトやヘッドハンター業が数多く誕生していますが、最近、米国企業では、業界、業種、規模を問わず、ソーシャル・メディア関連の役職が次々と設けられており、「需要が供給を上回る(求人の方が、実際にその役職を満たせる人の数より多い)」という事態まで起こっていると言われています。
そもそも、「コミュニティ・マネージャー」という言葉の意味は、「コミュニティ(共同体)」を「マネージ(管理する)」というものですから、社外(顧客、パートナー)と社内(社員、従業員)のいずれも「コミュニティ(共同体)」であると考えられますし、オンラインとオフラインの両方を含むものです。しかし、今日の時代的背景から、昨今では、企業の役職として「コミュニティ・マネージャー」という時、多くの場合「オンライン・コミュニティ・マネージャー」を意味するようになってきています。また、一般に、特定の企業やブランドが主導的に立ち上げた「プライベート・コミュニティ(閉鎖型コミュニティ)」のみを指すのではなく、フェイスブックやツイッターやその他のウェブ上のプラットフォームに存在するすべてのコミュニティ(オープン型コミュニティ)を包括します。
歴史的に見ると、コミュニティ・マネージャーの仕事は、IT企業やウェブ関連の新しいタイプの企業ではじめに導入されましたが、今では、かなり旧体制的な大企業(フォーチュン500級の企業)でも導入されてきているようです。しかし、新しい職種であるため、職務、権限や責任範囲などについては、企業によってばらつきがあり、「これ」といった絶対的な定義はまだ存在しないようです。また、「コミュニティ・マネージャー」の役職についている人の職歴や資格、経験も様々です。「コミュニティ・マネージャー」は、従来型の職種のように、特定の学位をとったからその資格があるというわけではなく、また、経験の面においても、これといって決め手となる必要条件があるわけではありません。
コミュニティ・マネージャーの年収
さらに、コミュニティ・マネジャーを「戦略系」職種としてとらえるか、または「実務系」職種としてとらえるかについても、企業によって大きなばらつきがあります。コミュニティ・マネジャーが「戦略系」職種としてとらえられている場合、細かい話でいえば肩書きにも違いがあり、「ソーシャル・メディア・ディレクター」という肩書きをもちながら、その傘の中でコミュニティ・マネジャーの職務を満たすという場合もあります。このように、「戦略系」職種の場合、責任範囲も広く、また、与えられている権限も大きく、年収も10万ドルを超える場合も珍しくありません。
実際のところ、現在、多くの米国企業で、コミュニティ・マネージャーは「半戦略・半実務」系の仕事として捉えられているようです。それは、例えばソーシャル・メディア関連の職種に特化した求人などを見ると、「コミュニティ・マネージャー」という肩書きのついているものの多くが、「日々のコミュニティ活動の企画、管理、運営」というところに焦点を置いていることに反映されています。しかし、その中にも、コミュニティの「ライフサイクル」や「ライフステージ」を考えて、長期的な視野でコミュニティを進化させていくためにはどうしたらいいかという企画や方策を立案する、という側面もあり、これが、コミュニティ・マネージャーが「半戦略」系の仕事であるという所以です。ちなみに、このタイプの「コミュニティ・マネージャー」の平均的年収は6万ドルから8万ドルといわれています。
「コミュニティ・マネージャー」が、まったく「実務系」職種として捉えられている企業の場合、これらの職種がもつ職務や責任範囲、権限は非常に狭く、「コーポレート・ブログ」や、会社のフェイスブック・アカウントやツイッター・アカウントのライターとして活動しているといった程度です。これらのポジションには、正社員ではなく、パートタイム人員や、あるいはフリーランスの人が雇われている場合も多くあります。特に経験や資格を問わないため、四年制大学を卒業したての「デジタル・ネイティブ世代」が、年収3万ドルから5万ドルといった条件で雇われている場合が多く見られます。
このように、「コミュニティ・マネージャー」を「戦略系職種」として見るか「実務系職種」として見るかが企業によって異なるため、仮にコミュニティ・マネージャー自身が高い能力レベルやモチベーションを備えていても、企業によっては、コミュニティ活動の企画・管理・運営にあたる上でコミュニティ・マネージャーに十分な権限やリソースが与えられていないといった歪も出てきています。また、「コミュニティ・マネジメント」や「コミュニティ・マネージャー」をれっきとした企業活動の一環や役職として確立していくためには、「コミュニティ活動の成果」や「コミュニティ活動が事業活動に与えるメリット」を目に見える形で経営側に報告していく必要がありますが、「コミュニティ・マネージャー」がその方法を捻出できないという問題も起こっています。言い換えれば、企業組織内で成功する(認められる)「コミュニティ・マネージャー」は、「コミュニティ活動の成果」をステークホルダー(経営側、社内関連部門、顧客、パートナー、株主など)にアピールできるコミュニティ・マネージャーだということです。
もちろん、「コミュニティ活動の成果」をいかに捉えるかは、その企業の経営側が、コミュニティ活動のメリットを長期的なものとして見ることができるか否かによっても変わってくると思います。「コミュニティ活動」が、売上の増加や利益の向上といった短期的指標に与える直接的な影響を立証することはほぼ不可能(あるいは不適切)であることから、コミュニティの活動成果を測るものとして、いろいろな測定指標が模索、提案されてきています。
コミュニティ・マネージャーの現状
以下に、アメリカのソーシャル・メディア・エキスパートやコンサルタント、あるいは、企業で実際にコミュニティ活動に携わっている現職のコミュニティ・マネージャーたちの複数の見解をもとに、アメリカの企業がコミュニティ活動に期待していること、また、アメリカの企業において考えられているところの、コミュニティ・マネージャーの役割や責任範囲についてまとめてみました。
アメリカの企業がコミュニティ活動に期待していること(コミュニティの意義)
コミュニティ・マネージャーの責任範囲(戦略系)
また、コミュニティの目的やフォーカスによって、コミュニティ・マネージャーに、以下のような専門分野に関する知識、経験、あるいは理解が要求されることがあります。
ただし、コミュニティ・マネージャーが現実に上記の分野すべてに関する経験や知識を持ち合わせているケースは少ないと思います。そのコミュニティが上記機能のいずれかに特化している場合、あるいは、それにフォーカスがおかれている場合には、その特定分野における経験や知識をもった人がコミュニティ・マネージャーに選ばれるということはあるでしょう。しかし、多くの場合、現実的には、コミュニティ・マネージャーが、上記のような機能分野と密接なつながり(コミュニケーション・チャネル、協業体制)をもって、顧客の声をフィードバックしていく、顧客の声に対応する、あるいは、改善策を実行するなどの行動を円滑に行っていくことが求められていると思います。
冒頭で述べたように、コミュニティ・マネージャーはまだ新しい職種であるため、今後、様々な試行錯誤を経て、より標準化された定義が確立されたり、あるいは、確固とした「スキル・セット」が定義されたりしていくと考えられます。しかし、「職業」や「専門分野」として定着していくにはまだしばらく時間がかかるものと思われます。
レポート作成:2010年9月
*この記事は実際のクライアント向けレポートとは異なります。
お問合せフォーム
ダイナ・サーチでは米国先進企業の事例研究に基づくコンサルティング・サービスも提供しております。お気軽にご相談ください。フォームをご利用の際は、以下の各項目を記入した上で、送信ボタンを押してください。
*必ずご入力下さい