米国ビジネス史上最速(?)の急成長企業、グルーポンのこれから

共同購入クーポン・サイトのグルーポンが日本でも注目を浴びている。勿論アメリカでも、「史上最速(?)の急成長企業」としてビジネス・メディアに引っ張りだこだ。
2008年に設立されたグルーポンは、今年、設立から二年足らずにして年商5億ドルを突破するという。そればかりではない。設立後17カ月にしての評価額はなんと13.5億ドル。アメリカのビジネス史上で、グルーポンより短期間で評価額10億ドルを突破したのはユーチューブだけだが、そのユーチューブは設立以来5年を経ているのにも関わらずまだ利益を上げていない。グルーポンはといえば・・・。黒字に転じたのは設立から7カ月であった。
この勢いでいけば、グルーポンの年商はあと一年くらいで10億ドルを超えるという。設立から3年未満という、これも前代未聞の快挙である。アメリカで「一世を風靡した」歴代の有名企業を見てみたが、「ネット・ビジネス」のアマゾン、グーグルでも10億ドルに達するのに5年、70年代、80年代に設立されたビジネスでは、アップルが8年、デルが9年を費やしている。ウェブの威力で購買力を集束するスケール、スピードともに飛躍的に向上し、それが企業の成長のスピードにも貢献していると思うが、3年で10億ドルとは、かつての常識では考えられなかったことだ。
「購買力を集束する」と書いたが、これがまさしくグルーポンのビジネスのバックボーンになっている。「期間限定」のプロモーションをウェブで配信し、その期間内に一定数の購買希望者が名乗りを上げれば、「ディール(取引)」が成立する。たいていのものはディスカウント率50%程度だが、なかには75%引きなど文字通り「破格」のものもある。
グループ購買」という仕組みはネット初期から存在したが、当初、その多くは、ウェブの「地理的障壁のなさ」に着目したものだった。それをあえて、「ローカル」に的を絞りこみ、「中小のビジネス」のサポート役として位置付けたところが、グルーポンの賢いところである。
そして、グルーポンのもうひとつの特徴として、「おトクな話は人から人へ伝わる」という昔ながらの原理を応用したという点がある。誰でも、バーゲンを見つけて、家族や友人・知人とそれを共有した経験があるだろう。「皆が知らないことを、自分だけ見つけてしまった」という自慢、「こっそり人に教えてあげて、喜ぶ顔が見たい」というワクワク感。そこに、「〇人集まればディール成立!」という触れ込みがあればなおさら、皆の力を募らない手はない。グルーポンは、こういった人間心理をうまく突いている。
生活者の視点から言えば、グルーポンは、その名のとおり「グループ・クーポン(共同購入クーポン)サイトであり、また、タウン情報サイトでもある。日々のプロモーション情報を通じて、「へえ~、こんなお店があったんだ」と、自分の街の「知る人ぞ知る」ビジネスを発見する楽しさがある。それが、グルーポンのサービスを利用する売り手側のメリットであるともいえる。今も昔も、スモール・ビジネスにとってはマーケティングが悩みの種だ。オーナーが仕入れ、接客、経理をひとりでこなしているようなビジネスの場合、マーケティングにあてるお金も時間も人もないことが多い。そんなビジネスにとっては、新しいお客さんに、その存在を「見つけてもらう」、そしてあわよくば、そのサービスを「試してもらう」という点で、グルーポンが強い味方になりえる。
しかし、グルーポンのビジネスは、比較的参入障壁の低いビジネスである。アメリカだけでも類似サイトは200件を超し、世界規模では500件。そのうち100件が中国にあるという。(www.groupon.cnという同名のサイトまであるが、本家本元のグルーポンとは何の関係もない。)既に読者を抱えているという点、そして、地域社会との関係において、信頼性が高い、という点から、グルーポンにとって最も手ごわい競合はタウン誌、フリーペーパー、ネット情報誌などの「メディア」であるという指摘もあり、アメリカではもう既に、一握りのメディア企業がグルーポン的サービスの展開を始めている。
そういった中で、今後、グルーポンがいかに独自性を主張していくのかが見ものになってくる。ひとつにはスケール。現在、グルーポンは、「1日、1都市につき1ディール」という当初のモデルから脱却し、マルチ・ディールの提供も始めている。欧州の「シティディール」、日本の「クーポッド」、ロシアの「ダーベリー」の相次ぐ買収によるグローバル化の動きも見逃せない。
だが、決め手は、「個々のユーザーとのつながり」というところにあるように思う。ザッポスと同じく、グルーポンの創立者兼CEO、アンドリュー・メイソンは、仕事における「FUN(楽しさ)」と企業文化の重要性を強調する。シカゴのシアター・コミュニティで働く人たちをコンタクトセンターに起用し、顧客サービスにおける自発性(ノー・スクリプト、ノー・マニュアル)とエンターテイメント性を追求している点もザッポスに似ている。商品/サービスの提供者(お店)と消費者をつなぐというユニークな立ち居地にいるグルーポンだからこそ、通常のバーゲン・ハンティングに特徴的な「浮気的」関係ではなく、「ステディ(恋人)的」関係を両者と築いていくことが、グルーポンにとって大きな強みになるのではないかと思う。