ソーシャル・マガジン・アプリ「フリップボード」が示唆する、新しい消費の形

iPad用に開発された「ソーシャル・マガジン・アプリケーション」、フリップボード(Flipboard)が7月末にリリースされ話題になっている。
私も早速ダウンロードして、会社のスタッフに教わりながらぼちぼち使ってみているが、なかなか楽しいツールだ。ウェブ時代の情報消費におけるキーワードは、「Portable(持ち運びできる)」、「Personalized(パーソナライズされた)」、「Participatory(参加型の)」の3つのPである、と言われるが、フリップボードは、まさにこの3つのPを現実化してくれるツールだと思う。
今日は、まったく個人的な感覚からなのだが、フリップボードが現実化するこの「3つのP」と、こういったツールが、我々の消費をどう変える可能性があるのかについて考えてみたい。
まず、「Portable(持ち運びができる)」だが、フリップボードを使うと、80を超える媒体(新聞や雑誌のオンライン版やブログなど)の中から好きなものを選び、各媒体から配信されるニュースをひとつのツール(フリップボード)の中でシームレスに読むことができる。いまやオフライン、オンラインともに様々な嗜好やニーズに応える媒体があって楽しいが、例えばマガジンを考えてみても、紙媒体でそれらすべてを持ち歩くのは物理的に不可能である。でも、フリップボードは、マガジンをデジタル化することによってそれを実現している。
そして、「Personalized(パーソナライズされた)」。これは、フリップボードの「売り」のポイントとして、特にテク関連のメディアに最も取り沙汰されている点だろう。
フリップボードは、FacebookとTwitterのアカウント情報を取り込み、知人、友人など、各ユーザーのネットワークの中にいる人たちの投稿を、時系列的、かつマガジン形式にレイアウトして見せてくれるという機能をもっている。
イメージとしては、自分の友人、知人が発信するニュースや情報だけで構成される「私だけのマガジン」ができるといった感じだ。例えば通常、ツイッターのつぶやきに外部サイトのリンクなどがついている場合、読者は、まずつぶやきを読んで、その内容に興味があればリンクをクリックして、外部のサイトに行ってその記事なり何なりを読まなくてはならない。リンクをクリックするまでは、それが本当にどんな記事だかはわからない。私の体験から言うと、「これは・・・」と思ってリンクを辿ってみても、読み始めると期待はずれでがっかりさせられることも多い。
でも、フリップボードで自分のツイッター・アカウントを読み込むと、つぶやきと、その中に含まれているリンク先の記事の冒頭部分が並んで表示されてくる。記事のはじめを「チラ読み」して興味があれば、「サイト上で読む」というボタンをクリックして情報源であるサイトに行けばよいのだ。この機能は、つぶやきの情報価値を倍増してくれる。
アメリカの非営利調査団体、Pew Research Centerによると、ウェブでニュースを読む人の75%が、SNSやメールなどを通して、友人や知人に紹介された情報を消費しているという。「あなたは毎日新聞。僕は朝日新聞」というような、メディア・ロイヤリティが存在した時代はもう終わりを告げ、複数の情報源から、読みたいものを、読みたいときに、読みたいだけ、「つまみ食い」するのが普通になった。
オフラインにもオンラインにも、情報源が溢れている。それらすべてに馬鹿丁寧に目を通していたのでは、寝る時間もなくなってしまう。そこで我々は、友人、知人のフィルターに頼るようになった。ウェブ上のソーシャル・ネットワークは、オーソドックスな意味で「近しい関係」の人ばかりではなく、まだ会ったこともないが、共通の趣味や関心や信条で括られた人たちで構成されている。だからこそ、その人たちが面白い、あるいは重要であると判断した情報は、我々自身にとっても面白いし、重要なのだ。
さて、最後の「Participatory(参加型の)」。これは先の「Personalized(パーソナライズされた)」に密接に関連している。メールなり、ツイッターなり、コミュニケーション媒体はともかく、面白いと思った情報を友人、知人に送って、共有するという行動はもはや「普通」になった。フリップボードの醍醐味のひとつとして、情報を起点に人がつながることを容易にするということがある。例えば、ためになる記事を読んでいる時に、そのリンクをつぶやいてくれた人にすぐにお礼や感想を言うことができる。まったくの赤の他人でも、些細なコミュニケーションをきっかけに、お付き合いが始まるかもしれない。ウェブが促進する「ソーシャル」な時代には、共通の趣味や関心をもつ人たちが集まり、地理的障壁を超えて、トライブ(部族)を形成することが可能だ。
昔から、あらゆる消費活動、購買活動は、人と人のつながりをベースに起こってきた。それは今でも変わらない。ただ、情報伝播のスピードが加速化し、それのもたらすインパクトが拡大しているだけだ。もはや、情報そのものに価値があるのではなく、情報の価値は人に帰属する。つまり、「情報の伝え手は誰か」ということが重要であるということだ。
このコンセプトを、情報流通に限らず、すべての流通業に応用することができる。今まで述べてきた「3つのP」を応用することが、流通業者にとっても重要なポイントになる。物品流通だって、「モノを顧客の手元に届ける」という最後のステップを除いては、情報伝播の力に頼るところが大きい。顧客がいかに、情報を「ひと口サイズ」に切って、自分ふうにアレンジしたり、人と共有したりすることをサポートできるか。それを可能にするツールや仕組みを提供することで、企業と顧客、顧客と顧客のつながりを強化し、購買活動を活性化するだけではなく、お客様がお客様を呼び、会社に利益をもたらす、循環系を築くことができるのではないかと思うのだ。