セレブが火付け役の「ツイッター」をビジネス眼で読み解く

先日、会社で受け取っているメルマガで、「セレブも熱中する『Twitter(ツイッター)』の魅力とは?」という記事を目にして、「やはり・・・」と思った。
「やはり・・・」というのは、「やはり、セレブが絡むと注目度が圧倒的に増すのだなあ」ということ。アメリカでも、現在巻き起こっているツイッター・ブームに火をつけたのはセレブだったが、これは日本でも然りということか・・・。
「ツイッター」とは、「今、なにしてる?」という質問に答える形で、ユーザーが140字以内のつぶやきを投稿していくソーシャル・ネットワーキング・ツールである。その短さゆえに、「マイクロブログ」などとも呼ばれるが、PCだけではなく、携帯でもメッセージの送受信が気軽にできる、気になるユーザーを登録して、そのユーザーの最新アップデートを自動的に受け取ることができる等、「即時性」「気軽さ」が醍醐味である。
私自身はやっていないが、「ツイッター」をやっている社員にきくと、「持ちつ持たれつ」の原理で、友だちの輪がどんどん広がっていくというのも、ツイッターの面白みであるという。どういうことかというと、「ツイッター」の世界では、登録する人とされる人の関係が、半・相互的であり、「この人に興味ある!」と登録(フォロー)をすれば、その人が登録し返し(フォローバック)してくれる可能性が高い。このようにして、まったくの一般人でも、数百人の登録者を集めるのがさほど難しくないのだということだ。
アメリカでは、ビジネスへのツイッターの応用が昨年の春ごろから注目され始め、私もその動きを追ってきた。しかし、アメリカでも、つい最近まで、ツイッターについて知っているのはIT業界、マーケティング業界関係者、そして、「アーリー・アダプター」と呼ばれる、ソーシャル・メディアに明るい一部の人たちくらいだった。日本ではほとんど知名度ゼロで、講演でツイッターの話を持ち出すたびに、「ぽかん」とした顔をされることが多かった。
それが、つい一カ月くらい前のことだろうか、テレビを見ていたら、セレブが口々に、「ツイッターをやっている」といい始めて、瞬く間に一般の人たちまでがツイッターに関心を持ち始めた。やはり、ハリウッドの威力はすごいのだ。オバマ大統領を差し置いて、登録者100万人を初めて突破したのも、俳優のアシュトン・カッチャーだった。セレブがツイッターを始めると、その日のうちに登録者が一万人くらい簡単についてしまうという。
やはり世の中というのは本質的にミーハーなのだ。先のメルマガのように、日本でもツイッターについて聴かれる話題はもっばらセレブ絡みのようだ。ビジネスの世界でもツイッターは活躍しているのに、あまりにもセレブの話題がクローズアップされすぎて、ツイッターのビジネス価値が理解されないままになってしまうのではないかと個人的には少し懸念している。
私見になるが、ツイッターは、「子供の遊び」や「セレブの暇つぶし」として片付けられるべきではない。企業が、これからの動きを真剣にウォッチしていくべきツールだと私は思っている。
その理由は、ツイッターは、企業が「顧客との距離を縮める」上で、絶好のツールであると思うからだ。拙著の書評で、小飼弾氏が「顧客に近い者勝ち」という言葉を下さって、私もこれには、「なるほど」と頷いたが、市場が激変する中で、「顧客とお近づきになれない企業には勝算がない」時代になってきている。企業が顧客に聞かせたいことを、ビルの屋上からメガホンでまくし立てて、それを「マーケティング」と呼ぶ感覚はもう時代遅れだ。企業が、「企業」というのっぺらぼうでなく、個性を出し、素顔で、顧客と円卓を囲みながらおしゃべりする、そういうマーケティング・スタイルに変えていけなければ未来はない。
ツイッターを通じて、「顧客との距離を縮める」ことで、大いに成果を挙げているのが、アメリカのザッポスという会社だ。ザッポスは、ネットで靴やアパレルなどを販売している会社だが、「顧客と、パーソナル、かつ感情的なつながりを築くサービス体験」の提供をほんとうの意味での「売り物」としている。そのザッポスでは、ツイッターを、「個々の顧客とつながる、またとないツール」と捉え、CEOトニー・シェイ自ら、その利用を推進している。彼の投稿への登録者数は、なんと、55万人を数える。
アメリカ広しといえども、トニー・シェイほど、ツイッターの本質を理解し、ツイッターを使いこなしている経営者はいない。トニーは、ツイッターを通じて、私生活とビジネスの障壁を超え、彼が今取り組んでいること、見聞きしたこと、考えたことを実にオープンに発信している。投稿を読んでいると、彼の人柄がごく身近に感じられてくる。そればかりでなく、「ザッポス・ブランド」が、ユーモア、誠実さ、楽しさなどの性質を備えた、「人格」として印象づけられてくるのである。彼のメッセージを日々受け取る55万人にとって、ザッポスはいつしか、「なじみの店」になっている。
このように、今、アメリカでは、ツイッターを巡っていろいろと刺激的な試みが起こっている。巷で報道されているように、セレブがやっているだけではないのだ。次回は、ツイッターが、「今どきの消費者」のライフスタイルやマインドセットにうまくマッチし、マーケティングの新境地を切り開いていく上で格好のツールである所以を、キーワードと事例を挙げながらお話ししていく。