アメリカの金融業界といえば、過去数年にわたって相次ぐ不祥事に悩まされてきましたが、ここにきて、「倫理的な企業文化」の育成に各社躍起になっていると聞きます。
というのも、連邦準備銀行など「お上」が、不祥事再発の予防策として、「非倫理的な行為」や「過大なリスクを負う」と見られるような問題行動をモニタリングし、「企業文化の歪」を早期感知する努力を払うよう企業に指導しているからです。
不祥事の源が「一握りの悪人」にあるのではなく、業界全体の風潮にあるのではないかと考え、問題を未然に防ぐためには、各社の企業文化に潜む「元凶」を絶たなくてはダメだ、とお上が判断したという点が興味深いです。
昨年、ニューヨーク連邦準備銀行の総裁であるウィリアム・ダドリー氏が、大手金融会社のトップに対して、「もし、金融会社が不正の源を絶つために積極的な取り組みを行わなければ、当局の権限として、当該企業の解体も考慮する」という厳しい警告を発しましたが、そのスピーチの中では、「カルチャー(企業文化)」という言葉がなんと44回も繰り返し使われていたのです。
「悪い企業文化」が自社の格付けに悪影響を与え、会社の存続まで危うくするとなっては、金融会社も重い腰を上げないわけにはいかず、コンサルタントを雇うなどして企業文化の現状把握、従業員の声の把握、企業文化の改善策の考案や実施に多大な資源を投じているというわけです。
例えば、大手銀行のウェルズ・ファーゴでは、2010年から従業員の幸福度調査を導入し、「ハッピーな社員」と「アンハッピーな社員」の比率を測る試みを行っています。2010年には「3.8対1(3.8人のハッピーな社員に対して、アンハッピーな社員が1人存在する)」であったのが、2013年には「7対1」、2014年には「8対1」という具合に年々向上しているといいます。また、2年前からは、従業員意識調査の中に「家族、知人・友人にウェルズ・ファーゴを薦めますか」という質問を加え、会社に対する信頼度を測る指標にしているとのことです。
また、会社によっては、従業員同士の親交を深め、結束を強化するという目的のもと、部門ごと、チームごとの「ハッピー・アワー(非公式に行われる飲み会)」を奨励しているところもありますが、最近の調査で、「ハッピー・アワーはハラスメント行為を生みやすい」などの問題が指摘され、新たな悩みの種となっているようです。
多くの金融機関におけるインセンティブ構造が、「リスクをとる」行動や意思決定を奨励・増長するように組み立てられているということもあり、問題の根っこは一筋縄ではいかない深いところにありそうです。
「各社が自発的に取り組んでいる」というよりは、お上の指導により「やらされている」感の色濃い米金融業界の企業文化への取り組み。果たして本当の意味で実を結ぶのかどうかは疑わしいような気もします。個人的な見解ですが、金融業界全体の価値観の見直しや社会意識を高める運動などが求められているのではないでしょうか。