アメリカでの起業体験:その2

アメリカという国で会社を経営するにあたって、難しいのは、経営者だからといって、独断的に会社を運営していくことはできない、ということです。これは大きな会社に限らず、小さな会社でも同じです。
アメリカには、「社内顧客」というコンセプトがあり、会社にとっては、従業員も、何らかの価値を提供しなくてはならない「お客さん」であることに変わりありません。働いてくれる人たちが、自分を伸ばし、やりがいを見出すことのできる環境を提供することも経営者の務め。また、会社としての価値を上げていくためには、ひとりひとりが「起業家」であるという精神をもって、プロジェクトをこなしていくことが必要です。経営者として、働く人たちに対して心を開き、ビジョンを共有することができなければ、働く人たちの共感や支持を得るのは大変難しいということです。特に、私の経営する会社は、「コンサルティング」という特殊な業種ですし、小さな会社なので、適格な人材を見つけることはなかなか難しいという現実があります。「コンサルタントになりたい」という人はたくさんいるのですが、「アメリカに住む日本人」という限られた人材プールの中で、やる気と能力の両方を持ち合わせた人はごく少数です。

「アメリカの大学を出た」とか、「英語が喋れる」というだけではコンサルタントの適性としては不十分です。アメリカと日本の相違点、または共通性を十分よく理解し、ある種の使命感をもって仕事に臨むことが必要だと思います。

時々、「アメリカの会社では、9時-5時で働けばよい」と考えている人がいますが、日本であろうと、アメリカであろうと、そんな甘い話はありません。

また、「アメリカの学位を得たことが高収入につながる」と思っている人もたくさんいますが、そういった考えも誤りだと思います。結果を出せない人が、お金だけを求めてコンサルティングの会社に就職したいと思っても、うまくいくわけがありません。学校とキャリア、というのは異なる二つの世界であると認識し、いかに立派な学歴を持っていても、仕事とは「ゼロからの出発」であると心して一心不乱の努力を払う覚悟をすることが必要です。

アメリカで会社を経営することの喜びは、グローバルな環境の中で交渉したり、アメリカ中、世界中のビジネス・ピープルとのネットワークを築いたりすることです。そうしてチャレンジすることに、日々、満足感を見出しています。

ひとつマイナス面を挙げると、アメリカにあまりにも長く暮らしているため、自分がもっている知識やノウハウが、日本という市場に照らして、どういうところに役立つのか、また、どういった価値があるのか、わからなくなっているということです。こういったマイナス面をカバーするため、日本に出張するたびに、いろいろな人と会って話をして、日本の「今日的」な感覚を掴もうと努力していますが、そういった「眼力」を身につけるというのは、なかなか難しいものです。「日本企業にとっては、こういうことが価値提案になる」と教えてくれる、目利きのような人を見つけることが必要なのかも知れません。