顧客と共に「汚れと戦う人々」、メソッド社の流儀

「汚れと戦う人々」をつなぐメソッド社

「身体と環境にやさしく、目に楽しい」をコンセプトに洗剤などの日用品の企画・開発・製造を手がけている「メソッド」という会社をご存知だろうか。

米サンフランシスコを本拠とする会社だが、日本にも支社をもち、製品も流通しているので、その名前に聞き覚えがあるという人もいるかもしれない。

4月の初めにサンフランシスコで行われたコンシャス・キャピタリズム・カンファレンスで、同社の共同創設者兼パーティ・スターター(パーティ発起人)であるエリック・ライアン氏のスピーチを聴く機会があったので、今日はそのハイライトを皆さんとシェアしたいと思う。

まずライアン氏は、化学作業員かはたまた宇宙飛行士を思わせる真っ白の防護服とゴーグルに全身を包み、さっそうと舞台に登場。聴衆の喝采を買った。

メソッド

ライアン氏は同カンファレンス中、スピーカーとして、またパネラーとして三回登壇したが、その都度この衣装に着替えるという趣向の凝らしようだった(ちなみに観客席にいる時には普通の格好をしていた)。同社のコア・バリューである「メソッドの『ヘンさ』を維持する」をまさしく地でいっているわけだが、その視覚的な奇抜さに負けずとも劣らず刺激的なメッセージがあった。

「顧客とブランドとの間にある壁を取り除く。それが、メソッドのやり方です」

メソッドでは社員のことを、「汚れと戦う人々(People Against Dirty)」と呼ぶ。そして、顧客も同じく「汚れと戦う人々」だ。

日常の汚れ。化学物質によってもたらされる環境の汚れや人体の汚れに対して、新しい商品提案、新しい消費スタイルをもってして果敢に立ち向かっていこう、というのが、メソッドのメッセージなのだ。

 

社員と顧客が共に夢を見る未来企業

パタゴニアが最たる例だが、社会に貢献する確固たる目標を掲げて、それに熱烈に共感してくれる人(社員、顧客)を集めることが、これからの企業にとっての繁栄の条件だと私は思っている。

社員、顧客、そして社会と共に夢を見る企業。それを私は「未来企業」と呼んでいる。先に述べたパタゴニア、ザッポス、ホール・フーズ・マーケット、グーグル、スターバックスなどがそうだ。

もはや、商品やサービスのメリットや効能を顧客に信じてもらうだけでは足りない。会社(ブランド)そのものを信じ、世の中で会社が成し遂げようとしていることを信じ、応援してもらうことが必要なのだ。

未来企業が描く世界観においては、社員と顧客は共に大きな目的の達成のために戦っている。つまり会社にとって顧客は同志であり、仲間なのだ。

 

強烈極まりないメソッド社の「オンボーディング」

ところでメソッドでも、他の未来企業の類にもれず、強烈な企業文化をもっている。社内の結束を固め、社員の帰属意識を育てるための様々な儀式があるが、ここでは、その一部を紹介しよう。

ルルレモン近年、アメリカの経営者の間では、「オンボーディング」に対する注目が高まっている。「オンボーディング」とは、もともと乗り物に乗り込むことを意味するが、人事の世界では、会社という乗り物に乗り込んでくる新しい社員が、一刻も早く会社の文化に慣れ、高い生産性をあげてもらうことを意図した仕組みやプログラムのことを「オンボーディング」と呼んでいる。この「オンボーディング」をどうするか、ということを課題として、多くの会社がそれぞれ創意工夫を凝らした様々な試みを行っている。

メソッドには、入社初日に各社員が自分の肩書きを考える、という儀式がある。これは、社員の自分の仕事に対する愛着と、会社に対する帰属意識を高めるための仕組みだ。メソッドには、「村民の声(カスタマー・サービス)」、「浪費家(最高財務責任者)」、「商品大帝(商品開発部部長)」など変わった肩書きがたくさんある。創設者のライアン氏の「パーティ・スターター」というちょっとふしぎな肩書きもそういったわけだ。

また、新規社員は初日に手づくりのクッキーを持参し、自分のデスクの上においてみんなに振舞う。そうやって、会社の中の人がデスクに立寄る機会をつくることによって、自分の部門や部署に所属していない人とも知り合うきっかけができるというわけだ。

企業文化の育成に着手する際に、メソッドはザッポスをはじめ数社をお手本としてその手法や仕組みを研究したそうだ。メソッドの要となっているのは「イノベーション」であるが、革新体質の組織にふさわしい戦略的な企業文化、ということを念頭にコア・バリューが定義され、それを基盤に数々の創造的な仕組みが確立されている。

ザッポスが要にしているのは「サービス」であり、ザッポスという会社は「サービス文化」の典型と言ってもいいが、「サービス文化」や「イノベーション文化」など、フォーカスの異なる文化を観察し、共通点や相違点を拾い出してみるのもとても面白いと思った。

メソッドの企業文化についてもっと知りたい方は、共同創設者のエリック・ライアン氏とアダム・ローリー氏の著書が日本語訳でも出版されているので是非手に取ってみられることをお薦めする。