ウォルマート/アマゾン独占時代を生き延びる、その戦略とは・・・?

「より多くの選択肢」を、「より安く」、「より簡単に」、探し出すことを求めて、ウェブへの顧客大移動が起こっている昨今。「訪れる意義」ある店舗づくりが問われてきている。一方、アメリカの店舗市場では、ウォルマートがナンバー・ワンを誇る商品カテゴリーが長いリストをなす。ウォルマート/アマゾンが独占を狙う市場で、生き延び、繁栄していくための戦略とは・・・?
最近、買い物をしていて思うこと。それは、アメリカの「店頭」や「コンタクトセンター」などといった、「接点」が大きく豹変してきているということだ。
私がここでフォーカスしたいのは、「人」ならではの力を活用した接点の大変革である。個々人のもつ個性やパーソナリティ、知識や感性、表現力などのアセットを最大限に発揮させ、「唯一無二のお客様体験」の創造をめざす試みが、そこかしこに見られるようになってきているという話だ。
一例として、アメリカにトレーダー・ジョー(Trader Joe’s)」というスーパーマーケット・チェーンがある。「貿易商ジョーの店」というその名の通り、食品、ワインを中心に、世界中から買い集めてきたありとあらゆる商品をところ狭しと並べて売っている。ほとんどが、この店でしか買えない「プライベート・ブランド商品」であり、行けば必ず、面白いもの、珍しいもの、掘り出し物が売っているという期待感を抱かせてくれる店である。
でも、この店の魅力は、単なる商品力に留まらない。「近所の店」「馴染みの店」を思わせる独特の接客も、他店にはない価値を生み出している。
店ごとに思い思いの装飾を施したレジには、ハワイアン・シャツを着た店員が笑顔でお客を迎える。お決まりのHi, how are you?だけではなくて、「欲しいものは見つかった?」に始まり、買い物カゴの中身についても、和気あいあいとした会話が続く。「それは僕も食べた。最高だよね」とか、「それが好きなら、〇〇という商品も試してみたらいい」などなど・・・。マーケティングの言葉でいえば、「クロスセル」「アップセル」などといった類のトークもあるわけだが、わざとらしさは少しもない。店員がみな、自分の個性を発揮して、お客との触れ合いを本当に楽しんでいる、という感じだ。
かくいう私も、つい先日、このトレーダー・ジョーの店員から、コーンの調理法についてのアドバイスを貰った。「コーンをゆでるなら、お湯の中に砂糖を少しだけ入れるといい。隠し味になるし、日持ちもよくなる」と、店員は親切に教えてくれた。
アメリカの標準から言えば小さめのスペースに、溢れるほど商品を詰め込んだトレーダー・ジョーの店舗は、せせこましくさえ見える。ちょっと視察に訪れるだけではその良さがわからないかもしれない。しかし、我々地元の者にとっては、特別な愛着を感じさせる、「なくてはならない」店舗になっている。
現在、トレーダー・ジョーは南カリフォルニアを拠点に、全米に324店舗をもつ。ドイツの大手スーパー、アルディのオーナーでもある資産家、テオ・アルブレヒトの後ろ盾を受けた私企業だから、売上は公開されていないが、年商およそ72億ドルだといわれている。「世界最大の自然食品スーパー」と誉れの高いホール・フーズ・マーケットと、ほぼ互角の規模であるということになる。まさしく、米国スーパーマーケット業界の「ダーク・ホース」的存在である。
「人」で差別化するという考え方は、店舗、オンラインを問わず、また業界を問わず、至るところに表れはじめている。ネット企業としてこれを実践して、アメリカの流通に新風を吹き込んでいるのが、以前からお話ししているザッポスという会社だ。「ザッポス」は、ザッポスの理念と文化を深く体得したコンタクトセンター社員たちに、個性を色濃く打ち出した接客をする自由を与え、顧客との間に、「他社には真似できない」つながりを築きあげることに成功している。
顧客サービスの接点では、過去には、「効率」の名のもとに、人ならではの力が押さえつけられる方針が採られてきた。レジでも、コンタクトセンターでも、顧客ひとりに費やす時間を測り、「パフォーマンス指標」として用いるという考え方がこれを物語っている。サービスは、モノと同様に、大量生産できるものとして、アッセンブリー・ラインにのせられてきた。レジのキーをいかに速く叩くことができるか、いかに正確にデータを入力できるか、などといったことだけが、働く人に要求されてきたが、これからはそうではない。
感動、愛着、仲間意識など、人だけが創り出すことのできる価値が、何にも勝る差別化だと、多くの企業が気付きはじめている。小売、電話通信、金融、PCサービスなど、米国のあらゆる業界で、これを実践に移す企業が頭角を表してきている。
ウォルマートが市場シェアの5分の1強を占める食品小売業界では、この傾向が特に顕著だ。トレーダー・ジョーに限らず、従来型のスーパーも、接点の強化、いわば「人間化」をめざして動きはじめている。
ウォルマート、アマゾンという二大巨獣を相手に、価格で競える時代でないことはもう目に見えている。とりたてて特殊な商品でない限り、「どこに行っても同じようなモノが買える」という市場における競争の本質を、我々は見直すべきだ。「人の力を、いかに引き出し、伸ばし、発揮させるのか」。経営者が最も頭を悩ませるべきは、人財戦略、という時代が到来しているのだと感じる。