スモール・ジャイアンツから学んだこと

これまで、アメリカの津々浦々の「スモール・ジャイアンツ」を訪問してきましたが、そんな出会いを通して学んだことがたくさんあります。すべてを話そうと思えば何日もかかりますが、今日はその一部をピックアップして書いてみたいと思います。

1. 大都市にも、田舎にも、「スモール・ジャイアンツ」はある

「スモール・ジャイアンツ」はニューヨークやロサンゼルスなどの大都市に集中しているのではなく、むしろその反対。日本の基準では「片田舎」と呼ばれるような小さな町にも、全米中、いや世界中にその名をとどろかせるような「スモール・ジャイアンツ」が存在します。

そのひとつの理由は、「スモール・ジャイアンツ」が、「地域密着型のビジネス」を展開し、「地域社会に価値を還元する」ことを柱にしているからです。私が懇意にして、長年研究をさせてもらっている多くの「スモール・ジャイアンツ」は、例えばシカゴの郊外、ダラスの郊外、デトロイトの郊外、デンバーの郊外など、緑の多いのどかな地域に本社を構えています。

シカゴ郊外のスモール・ジャイアンツ企業による店舗

デトロイトの郊外に、デリを主体としたフード・サービスの会社があります。食材の「質」と顧客サービスに徹底的にこだわり、なんとラスベガスやディズニーランドから声がかかるようなお店を築いてきました。チェーン展開、フランチャイズ展開。一般的なフード・サービスのオーナーなら、二つ返事で飛びつくような話でしょう。しかし、この会社のオーナーは、断固として首を縦には振りませんでした。なぜでしょう。自分が足を運べないようなお店を、ゆかりも何もない土地にオープンしたところで、自分が誇りにし、満足できるような商品やサービスは提供できない、と確信したからです。

デトロイト郊外のスモール・ジャイアンツ企業によるデリ

結果として、この会社はデトロイトの郊外の大学町で、ありとあらゆる食品関連のビジネスを展開しています。原点であるデリはもちろんのこと、ケータリング・サービス、チーズ屋、キャンディ屋、コーヒー屋、古き良きアメリカの食事を提供するレストラン、韓国料理屋さん、食品通販、ベーカリー、結婚式場、イベント会場、「食」に特化したラグジュアリー・トラベル会社等など。そして地域では、またとない「食」の体験を提供してくれる場所として愛され、尊敬され、また、その町に住む大学生からは尊厳とやりがいある職場としてもてはやされています。そればかりではない。教育事業部をもち経営セミナーも提供していますが、この会社の「成功の秘訣」を学びたい経営者が世界中からこの町を訪れるのです。

日本だと東京や大阪へのビジネス・リソースの集中がしばしば問題視されていますが、アメリカの「スモール・ジャイアンツ」の事例を見ていると、日本の未来を担うのは「地方」だと強く感じます。それぞれの地域ならではの「味」を活かして個性あふれるビジネスを展開し、地域の住民にとって、「なくてはならない」存在になる。こういったビジネスは日本でももちろん可能ですし、私自身も、そういった日本の「スモール・ジャイアンツ」をこれまでいくつも見てきています。

2.今ふうの業種もあれば、昔ながらの業種もある。「スモール・ジャイアンツ」は業界・業種を問わない

アメリカが最たるものだと思うのですが、20年ほど前に「ネット・ビジネス」が台頭を始めてから、「テクノロジー」を筆頭とした新しい産業に偏った注目が集まる傾向にあったと思います。

しかし「スモール・ジャイアンツ」は、そういった「新しいビジネス」だけに偏ったものではありません。「スモール・ジャイアンツ」の中には、先に述べたようにフード・サービスもあれば、製造業もあれば、コンサルティングのような情報・知識産業もあれば、俗にいう「ネットの会社」もあります。

大きい会社、お金のある会社、話題性のある派手な会社だけが脚光を浴びるような風潮がアメリカでも長いことありました。しかし現実は、誰もがテクノロジーの業界で働けるわけでもなければ、働きたいわけでもありません。子供たちや若者たちが、テクノロジー業界の仕事だけが「カッコ良い会社」という偏ったものの見方を聞かされて育つとしたら、社会としてこんなに乏しいことはないと思います。

「スモール・ジャイアンツ」は、真の意味で「カッコ良い会社」「立派な会社」とはどんな会社か、ということを身をもって教えてくれます。

真の意味で「カッコ良い会社」とは、「世の中の役に立つ」ことに優先順位をおく会社です。例えば、長野中央タクシーは、お年寄りや身体の不自由な人など、「交通弱者」に配慮したサービスを提供し、「お客様の尊厳を守る」ことを事業目的に掲げていますね。だからこそ、地域住民に愛され、圧倒的なロイヤルティをもつビジネスとして自らを確立しているのです。(長野中央タクシーについての記事はコチラ

真の意味で「カッコ良い会社」とは、「働く人思い」の会社です。アメリカでは2000年の初めから二回も大きな不況に遭遇していますが、不況のたびに「人思い」の文化がある会社とない会社とで明暗が分かれます。不況だから、コスト・カットだと思慮を欠いた「人減らし」に走り、働く人の信頼ややる気を破壊してしまう企業がある一方で、働く人たちが「私たちは家族だ」と宣言し、皆で不況を乗り切るために自主的な賃金凍結/カットなどの措置をとったがために会社の団結が一段と強まり、経済が回復するにつれて急速に業績を回復した会社の例はひとつやふたつではありません。

3.「スモール・ジャイアンツ」はコア・バリュー(共通の価値観)を大切にする

今まで、何十という「スモール・ジャイアンツ」の事例を見てきて明らかなのは、そのいずれも、「会社が大事にしたい価値観」を掲げ、社員が一丸となってその価値観を守り、日々の意思決定や行動の基盤としていることです。

会社が「コア・バリュー」を掲げ、それを実践するといったい何が起こるでしょう。

まず、会社の結束が固くなります。「会社として何が大事か」が統一され、共通理解されているため、判断のブレやすれ違いが起こりにくくなります。また、働く人同士の信頼も高まり、なあなあではなく、心から「仲の良い会社」ができます。

そして、会社で働く人たちの一人ひとりが、自分の能力や創意工夫を発揮し、伸び伸びと自由に働いて成果を出せるようになります。近年、「権限委譲」ということが盛んに言われていますが、たとえばサービスの現場で「働く人にすべてを委ねる」というのは現実的には決して簡単なことではなく、経営者にとっては怖いことでもあります。

というのも、「皆さん、今日から、自分で考えて判断して、行動してください」といったところで、個々人が会社が望むような結果を出してくれるかどうかは確証が持てないからです。だから、一般のサービスの現場では、「ルール」や「マニュアル」をもってしてサービスの成果を「均一化」しようとします。その結果、紋切り型な対応となり、顧客の「人間性」を無視した血の通わないサービスになってしまうのです。

「コア・バリュー(価値観)」を統一することにより、働く人はその基盤の上で自分の創造力を働かせて自由にプレイすることができます。その結果、顧客の「人間」と向き合う、血の通った、嬉しいサプライズいっぱいの、心に触れる感動のサービスが生まれるのです。

サービスの現場を例に挙げてきましたが、同じことは、営業職にも、あるいは商品開発の現場にも、経理や法務といった支援部門にもいえると思います。

「スモール・ジャイアンツから学んだこと」として三つを取り上げて書いてきましたが、スモール・ジャイアンツが提示してくれる経営のヒントはまだまだたくさんあります。これからも、アメリカの「スモール・ジャイアンツ」ばかりではなく、日本の「スモール・ジャイアンツ」からも大いに学んで、日本流スモール・ジャイアンツの活躍を世界に発信していきたいものです。

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