「インタビュー営業術」と交渉術に見る共通項(後編)

竹林篤実氏の著書、「顧客を動かす!インタビュー式営業術」を読んで、同氏が提唱している「インタビュー式営業術」と交渉術との共通性に考えさせられた。ここでは、25年にわたる米国企業との交渉経験から、「成果の出る交渉の基本原則」のいくつかをご紹介したい。
共通項その2
【「相手のメリットになる」シナリオを考える】
著書の中で、竹林氏が、「顧客の問題を共有し、それに対する解決策を提示する」ことの大切さについて語っているように、交渉でも、「相手にメリットをもたらすミーティングとはどんなミーティングか」を考え、シナリオを組み立てることが必要だ。
交渉というと、自分の言いたいことを主張して相手をねじ伏せるのが交渉だ、と思っている人が多い。だが、これを実践してしまうとえらいことになる。日本のビジネスマンの中には、米国企業との面談で、自分が言いたいことばかりまくし立てる、あるいは、情報収集のため相手を質問攻めにする、という人がいて、米国企業に嫌われるはめになっている。
「ギブ・アンド・テイク」という言葉があるが、「テイク」だけで「ギブ」が欠けている、というケースがよくある。これでは、先方はいい気はしない。交渉の席につくときには、まず、「いかに相手にメリットを与えるか」を考えるのが第一前提なのだ。どちらかというと、一回目のミーティングでは、「テイク」はとりあえず後回しにし、「ギブ」の方を優先して考える。どうやったら相手に興味を持ってもらえるか、を考えることが重要だ。
先方が、海外事業を活発に進めているような会社だったら、日本という国のこと、社会のこと、そして、相手先の会社が属する業界や市場の、日本における状況について解説するプレゼンくらいは用意していきたいものだ。
それで、相手に興味を持ってもらえれば、交渉の席上の第一関門はクリアだ。最終的に「提携」などといった具体的な成果に結びつかなくとも、お互いに好印象の残るミーティングをして、「一緒に仕事ができたらいいね」などというポジティブな言葉で締めくくれるようにしたいものだ。
共通項その3
【まず、相手の話を聴く】
ミーティングの席についたら、まずやるべきことは、自分を主張することではない。まずは、相手の話を聴くことだ。これも、「聴き込み」をその土台とするインタビュー営業術に似ている。
交渉の観点から言えば、相手の頭の中や手の内がわからないのに、自分の手をいきなり見せてしまうのは得策ではない。
とはいえ、面談をリクエストしたのはこちらなのだから、面談の目的と意図を明確かつ簡潔に述べよう。しかしその後は、ずらずらと独白で話をするのは避け、相手に喋らせる努力をすべきだ。海外市場進出についてはどう考えているのか。どういった方針で進めている(あるいは進めていない)のか。今、最も力を入れて取り組んでいる課題は何なのか。日本市場に興味はあるのか・・・。
相手が話しをしてくれることの中から、戦術の手口をつかむ、というのが狙いだ。日本市場に「興味がある」と言われるのと、「ない」と言われるのとでは、こちらの話し方も大分違ってくる。相手の関心を掴んで、相手が身を乗り出してくるような話に持っていこう。それは、相手に喋らせずに、自分だけ話をしていたのではできないことだ。
このように、竹林氏の「インタビュー営業術」と「交渉術」の間には興味深い共通項がたくさんある。本の中で、竹林氏も述べておられるように、「聴く技術」というのは、営業職に限らず、誰もがワークライフ、そして、パーソナルライフの充実に活かすことのできる欠かせないスキルだ。人生の中には、人の話からしか学べないことも多い。・・・もっとも、私のように話し好きな人間にとっては、口をつぐんでじっと人の話を聴く、というのが時にはとても難しいことでもあるのだが・・・。