ザッポスの試練:「ホラクラシー」という名の第二創業

ザッポスの「産みの苦しみ」

ザッポスが導入に着手したことで、米国内外ともに何かと注目を集める「ホラクラシ―」。総勢1,500人超の従業員を抱えるザッポスは、その導入例としては史上最大のケースです。当然、「すべてにおいて」と言っても言い過ぎではないほど、独自の方法や仕組みをゼロから創造することが要求され、その「産みの苦しみ」は並大抵のものではないようです。

ザッポス本社

 

ホラクラシーとは「セルフ・マネジメント(自主管理)」の仕組み

ホラクラシーとは「セルフ・マネジメント(自主管理)」の仕組み。「組織を構成する各人が自らの役割に対して責任と権限をもつ」という考え方に基づいています。従来型の組織では、「〇〇部の部長さん」などというように、所属や肩書きが重要でしたが、ホラクラシ―ではあくまで「役割」がモノを言います。

「部門」や「部署」は姿を消して、「役割」を軸に構成される「サークル」で置き換えられ、「サークル」のまとめ役には、従来で言うところの「マネジャー」ではなく、「リード・リンク」と呼ばれる人が配置されます。この「リード・リンク」は、「サークル」の目的遂行のために優先順位を定めたり、戦略を定義したりしますが、サークルの構成員を「監督」する権限をもつわけではありません。

「リード・リンク」は、仕事を管理するけれども人を管理するわけではない。そして、サークルの各構成員は皆平等に発言権をもつ。・・・これが、ホラクラシ―が「ボス不在の仕組み」と呼ばれる所以なのです。

ザッポスの本社ツアーより

 

サークルから外された人が行く「ビーチ」

ところで、ザッポスにおけるホラクラシ―の近況について、最近、実に興味深い話を聞きました。もともとは、その話の中に出てくる「ビーチ(The Beach)」という用語に興味をそそられたのですが・・・。

どういうことかというと、与えられた「役割」に向いていない、つまり、それを全うする能力や資質に欠けるという理由で「サークル」から外された人が行く場所が、「ビーチ」と呼ばれているそうなのです。「リード・リンク」は、「役割を全うできない」という理由でメンバーを「サークル」から外すことはできるのですが、人を辞めさせる権限は持たないため、「サークル」から外された人は行き場がなくなってしまい、組織の中で宙ぶらりんになってしまうのですね。

それでも、もともとカルチャー・フィット(文化適性)があってザッポスに雇われた人なのだから、ということで、しばらくの間、ワークショップに参加したり、性格診断テストを受けたりしながら、「自分の居場所」を探すのが「ビーチ」だというわけです。

なんだか、日本で言うところの「窓際族」と似たようなニュアンスもあるような気がして、複雑な気持ちになりました。

しかし、ほぼ半永久的な「窓際族」とは違って、「ビーチ族」に与えられる猶予は二週間から最高三か月まで。それも、進捗をカウンセラーと相談しながら、一週間ずつ延長していくそうです。「社内で適切な役割を探す」という目的のもとで期間を区切っているので、「窓際族」よりは、「社内職安所」の方が位置づけ的に近いかもしれません。

 

人事評価、給与、昇給・昇進・・・、課題は山積み

従来、「人」を管理していた「マネジャー」がいないということで、人事評価はどうするのか、給与はどう決めるのか、昇給や昇進はどのように行われるのかなど、まだまだ手つかずの課題が山積みのようです。また、皆が平等に権限を持つということが裏目に出て、「誰も意思決定をしたがらない」などというような、ソフト面での問題も生まれていると聞きます。

一度築き上げたものを崩して、一から建て直す、というのは、相当の覚悟とエネルギーを要することです。ザッポスの研究を始めて以来、かれこれ8年近くになりますが、その経営の先進性において私が尊敬する企業であるだけに、革新の峠をどうにかして乗り切って、「経営の未来」の姿を見せて欲しいものだなあと思います。