「人」を中核とした仕組みづくり-アマゾンとザッポスのアプローチ

(2010. 12. 9)

日本出張時に東京で行った講演・セミナーのご報告。今日はその第五回です。

『ザッポスの奇跡』、そして、私の講演では、ザッポスが実践する「“人”を主体としたWOW(驚嘆の)サービスの提供」についてお話しています。

ザッポス・エクスペリエンス・セミナーでの石塚しのぶ

サービスを通して、顧客に「感動」を与えることを目標とするザッポスが、コンタクトセンターでの顧客対応におけるマニュアルやスクリプトを設けないこともこれまでに幾度も触れてきました。

これらの点に焦点をあててお話していくと、必ずといっていいほど次のような質問が出てきます。

「・・・でも、アマゾンはどうなんですか。アマゾンは、洗練されたテクノロジーのシステムでサービスを自動化することで、素晴らしい体験を提供しているじゃないですか」

なるほど。本の中でも述べていますが、「システムによる自動化を通して、ゼロ・ディフェクトを目指したサービスを実現する」のがアマゾンのアプローチ。

Amazon Virtuous Cycle (好循環)
アマゾンの好循環
(出所)アマゾン・ドット・コム公表資料より著者作成

そして、「人+ITで、人ならではの能力とITの強みを融合して、強烈にブランド化されたサービス体験を提供する」のがザッポスのアプローチ。

どちらが優れていて、どちらが劣っているということではないですね。アマゾンもザッポスも、「最高の顧客エクスペリエンスの提供」を目指している、ということにおいては志は同じです。社内の価値観も実は驚くほど似ています。ただし、その目標に到達する上でのアプローチが異なるのです。

・・・それに、アマゾンについてよく見落とされていることなのですが、私は、アマゾンのプラットフォームとは、人を中心にとことんまで考え抜いた上で構築されてきた仕組みだと思っているのです。顧客自身の購買履歴だけでなく、同じような商品を購入した人がどんな商品を購入しているか、というデータ解析をベースに「おすすめ」をはじき出すリコメンデーションのシステムなど、他社に先んじて、「人」中心のコマース・プラットフォームをつくりこんでいったのがアマゾンです。

つまり、アマゾンのシステムというのは、自動化されているにしても、そこに、人間の性質とか嗜好とか欲求とかいったものを組み込んで、人間寄りにつくられたシステムなのです。「自動化すれば人間なんかいらない」という思想でつくられているのではないということです。

だから、繰り返し言いますが、ザッポスとアマゾンのアプローチの、どちらが正解で、どちらが間違っているということではない。けれども、アマゾンというのは、設立当初から大変な投資をして、「人間寄りのシステム」を組み立ててきたのですから、今から起業するとか、あるいはこれからアマゾンと対抗していこうという企業が同様な仕組みをつくることができるかというと・・・。それを実現するに足る資金力やタレントを確保するのは難しいと思います。

Ub|XZ~i[オフライン、オンラインに限らず、今どき、「流通・販売業」を営む会社がアマゾンと競合しないなんていうことはほとんどあり得ませんが、アマゾンと競争、あるいは共存していくにあたって、最も勝算の高いアプローチ、学ぶべきアプローチはザッポスのものではないか、というのが私の主張なのです。

また、サービス・サイエンスの本や文献を読んでいて、私が時々疑問に感じるのは、仕組みやマニュアルづくりということにあまりにも偏った焦点が置かれていることです。仕組みをつくる、マニュアルをつくる、ということだけに紙面を割き、人ということには触れられないままで終わってしまう本も多くあります。「仕組みとマニュアルさえ確立してしまえば、人の能力なんて必要ない」といわんばかりの考えには私は賛成できません。会社の組織や仕組みを組み立てる際にも、まず、「人ありき」で、人が基本であるという原則を認識することが、これからの「個」の時代における経営に最も必要とされていることではないでしょうか。

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