日本出張時に東京で行った講演・セミナーのご報告、第三弾です。
『ザッポスの奇跡』を発刊後に寄せられた質問や疑問を集めてお答えする、というコンセプトで講演を構成してみたのですが、ふたつめに取り上げた質問は、
「ザッポスのコンタクトセンターでは、どうしてマニュアルやスクリプトをつくらないのか?」
というものです。
ザッポスのコンタクトセンターには、マニュアルもスクリプトもありません。電話をとる時の挨拶でさえ、社員の思い思いの言葉に任されています。こういう話をすると、きまって、「でも、マニュアルやスクリプトをつくらなければ、カスタマー・サービスの質を均等に保てないのではないですか?」という答えが返ってきます。これを理解するには、カスタマー・サービスの目的をザッポスがどこに置いているか、ということを明確にしなくてはなりません。
ザッポスでは、なぜマニュアルをつくらないのか?その答えは、ザッポスが目的としているのは、「感動のサービスの提供」であるからです。
ザッポスのコア・バリューの一番はじめに登場するのは、「サービスを通してWOWを届けよ」です。ここからもわかるように、ザッポスのコンタクトセンターの役割は、受注処理でも、問い合わせに答えることでも、クレーム処理でもありません。ザッポスのコンタクトセンターの目的は、WOWを届けること、そして、顧客とのパーソナルかつエモーショナルなつながりをつくることです。そして、それを成し遂げるのはマニュアルでもスクリプトでも機械でもありません。「人」なのです。ザッポスでは、「人」が売り物なのです。
ですから、顧客接点に立つひとりひとりの能力が非常に重要になります。そしてこの能力とは、電話のシステムを操作したりとか、PCを操作したりとかいうテクニカルなスキルを指すものではありません。そうではなくて、ピープル・スキルです。サービスの価値は、個々のお客様が決めるものです。ですから、お客様と真剣に向き合い、そのお客様がどこに価値を見出すのか、推察しなくてはなりません。そして、その価値を提供することを目指して、行動するのです。人は、「こうして欲しい」と口に出した希望がかなえられたとき、感謝するものです。もし、口には出していないニーズを相手が察して満たしてくれたら、人は感激します。たいていの会社は、「サービスに優れている」会社でもこのレベルで止まっていると思います。しかし、自分でもはっきりとは認識していなかったニーズを、相手が想像力をはたらかせて、満たしてくれた時、お客様は感動します。思いもよらなかったけれども、してもらったらそれがパーフェクトなことだった。すごい!と思うわけです。感動体験はストーリーを生み、伝説を生みます。人がそれを語りついでいくようになれば、しめたものです。それが、ザッポスが目指す境地なのです。
ザッポスが目指しているサービスとは、マニュアルやスクリプトで均質化できるサービスよりももっと高度なものであるということです。
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