「どうやったらいいか」わからないことを成し遂げる打開力:『ザッポス伝説』が教えるリーダーの条件

(2010. 7. 21)

『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』には、トニーが、「ドロップシップ・モデル」から、「全在庫モデル」への転換を決意したプロセスがかなり詳細に書かれています。

「経費を切り詰めるために、マーケティング予算をほぼゼロにして、代わりにサービスを強化して、今いるお客さんにもっと頻繁に、もっとたくさん買い物をしてもらうことにフォーカスした。でもそれだけでは、会社を黒字にもっていくことはできない。売上を伸ばす方法を考える必要があった。・・・そのためには、『奇跡』が必要だった」

そこで、トニーは、ノードストロームの元敏腕バイヤーであり、創業時のザッポスで取引先開拓を一身に担っていたフレッド・モズラーに、次のような質問を投げかけるんです。

「売上を増やすために、何か打てる手はないか?」

それに対するフレッドの答えは明確でした。

「うちには、『売れる商品』がない。『売れる商品』を仕入れることができれば、売上はしぜんとついてくる」

では、「『売れる商品』を仕入れるにはどうしたらよいの?」というトニーの次の質問に対して、フレッドはこう答えました。

「多くのブランド(メーカー)は、ドロップシップに適した配送の仕組みをもっていない。また、仮にドロップシップできても、人気のある商品は真っ先に売り切れてしまうので、在庫リスクを負わないビジネス・モデルのザッポスには回ってこない。」

つまり、全商品を買い取り、在庫を保有するビジネス・モデルに切り替えれば、売上を三倍かそれ以上に伸ばすことができる、というのが、フレッドの答えだったのです。

「でも、それはうちのビジネス・モデルではないから、できないよね」とすぐさま打ち消すように言うフレッドに、トニーはこう応じます。

「会社が生き延びるために、ビジネス・モデルを変えることが必要なら、どうやったらそれができるかを前向きに考えよう」。

このあたりが、トニー・シェイというリーダーの「器」の大きさを示していると、私は思います。彼の辞書には、初めから、「不可能」という文字はないんですね。「できるようにするにはどうしたらいいか」という探求と挑戦の心があるばかり。

そこで、トニーとフレッドは、その場で、「会社を全在庫モデルに転換させるためにやることリスト」を作成します。要約すると次のようなものでした。

1. MDを専門に担当する人材を雇い入れ、チームを編成すること
2. 取扱ブランドを増やせるよう働きかけること(注:交渉中のブランドの多くはネットでは売りたがらない)。
3. 在庫状況が販売サイトに反映されるよう、販売管理ソフトをアップグレードすること
4. 在庫を管理するための倉庫をもち、倉庫を切り盛りする人材を雇うこと
5. 上述2の項目を実現させるために、実店舗を開き、運営すること(注:資金がないので、店舗スペースを借りることができるかどうかは疑問)
6. 在庫を仕入れるための資金を捻出すること(注:フレッドによれば、これを実現するために200万ドルは必要)
7. これらすべてのことを、数カ月以内に実現すること

こんなリストを、お酒を飲みながらたった一時間くらいの間につくってしまったそうです。「できないんじゃないか」「難しいんじゃないか」などという声に邪魔されることのない実行力、スピード感。すごいなあ、と思います。

そしてふたりは、リストを見ながらタスク分担をしたんですね。商品に関わること(項目1と2)はフレッドが担当する。そして、項目3と6はトニーが担当する、という具合に。項目4については、今あるオフィス・スペースの半分をやりくりして倉庫にしてしまえばいいとか。項目5の解決策に至っては、実にクリエイティブです。

オフィスの受付エリアを、「お店」にしてしまったらと考えたんです。商品が陳列してあって、その場で買えれば「店舗」だろうと。当時、ザッポスの本社は、サンフランシスコの、スクリーンが14個もあるシネマ・コンプレックスの中にあったんですね。だから、客足はかなりあった。映画館のロビーに突如として靴屋さんがあるような感じですから、これが意外にウケて、繁盛したんですね。

あと、田舎のほうの、ちょっと困っているような靴屋を安く買い取ってしまう、なんていうアイデアも出ました。そうすれば、一応、「店舗を持っている」ということになるし、その靴屋が取引しているブランドをそのまま「引き継ぐ」ことができる、と。そして、なんと、このアイデアも実践に移しました。

このように、どしどし解決策を考えていったわけですが、中には、どうしても先が見えない問題もありました。どうやったら、名も無いネット通販の会社に商品を売ってくれるよう、ブランドを説得することができるのか。そして、どうやったら、200万ドルという大金を捻出することができるのか。

Ub|XZ~i[「どうやったら」いいかはわからないけれども、「やってのけねばならない」ことだけはわかる。それが、トニーとフレッドが置かれていた状況だったわけです。

このエピソードのタイトルは、原書では、「Believe(信じること)」といいます。「どうやったら」いいかはわからないけど、「僕はザッポスを信じていた。そして、フレッドを信じていた」と、トニーは語ります。「信じること」が彼の原動力だったのですね。

ドロップシップ・モデルから、全在庫モデルへの転換に踏み切ったことを契機に、ザッポスの売上は年商160万ドル(2000年)から860万ドル(2001年)という「奇跡の飛躍」を遂げるのですが・・・。誰もが口を揃えて、「不可能だ!」という時に、どんな行動がとれるか。いかに自分を、仲間を、そしてビジョンを信じて、「やらねばならぬ」という確信だけを頼りに、解決策をひねり出していけるか。その「たくましさ」と「クリエイティビティ」がリーダーの条件なのだと感じさせるエピソードです。

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