ザッポスCEOトニー・シェイの考える「社歴ある大企業が、『企業文化再生』に取り組む時、タックルすべきことは?」

(2010. 4. 26)

ザッポスCEOトニー・シェイによる著書『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の出版にちなんで、ラスベガスにあるザッポス本社を訪問し、ザッポスCEOトニー・シェイにインタビューをしてきました。本の事から始まり、企業文化について、リーダーシップについて、「幸せ」に関するトニー自身の哲学について、そして彼のプライベート・ライフについてなど話は弾み、1時間が瞬く間に過ぎてしまいました。このインタビューの模様について、何回かに分けて書いて行きたいと思いますが、今回はその第七回目です。 

石塚しのぶによるザッポスCEOトニー・シェイへのインタビュー

石塚:
今、アメリカだけではなく日本においても、「企業文化の重要性」が真剣に問われ始めていると思います。私の本、『ザッポスの奇跡』では、ザッポスを題材として、企業文化育成の仕組みについて書いているのですが、企業文化の育成というのは、若い企業ほどやりやすいのではないかと思います。例えば、ある程度社歴が長く、社員が何千人もいるような企業が、あらためて企業文化の再定義や育成に取り組もうという時、いったいどのへんから着手するのがベストか、何か考えがあれば聞かせてください。

トニー・シェイ:
まず、社員の声を聴くことから始めることだと思います。社員に、「現状はどうなのか」、そして、「我々はどんな会社でありたいのか」ということを、できるだけ正直に、そして自分に抑制をかけることなく話してもらうこと。すると、ほとんどの社員が、「現状に満足していない」ことがわかるでしょう。そうしたら、次なるステップは、「自分たちがありたい姿に近づくために、自らが行動する意志があるかどうか」を皆に問うことだと思います。それが、最初の手がかりになると思います。

石塚:
どんなに素晴らしい文化をもった企業でも、自己満足による停滞や劣化に陥る危険性を孕んでいると思います。ザッポスでは、そういった状況を防ぐために何か取り組んでいることはありますか。

トニー・シェイ:
確かに、そういった危険性は、どんな企業にもあると思います。それを防ぐために、ザッポスがやっていること・・・。それは、まず第一に、社員の皆が、「ザッポスの長期的なビジョンは何なのか」を十分よく理解していることを確認していくこと。そして、第二に、長期的な目標に向けて前進するための意図的なアクションを常に起こしていくことだと思います。「自己満足による停滞や劣化」というのは、前進することを止めた時に起こるものだと思いますから。

インタンビューを受けるザッポスCEOトニー・シェイ

石塚:
最近、あなたは講演などにも引っ張りだこで、会社を留守にしていることも多いと思うのですが、もし、あなたのように強力なリーダーがいなくなったとしても、ザッポスは、今と同じ方向に進んでいけると思いますか。

トニー・シェイ:
そうあって欲しいですね。だからこそ、コア・バリューがあると思うんですね。コア・バリューがあって、それが社員の間に浸透しているからこそ、個々の社員が自分で日々の意思決定をしつつも、それが会社の方向性と合致している、という状況を保つことができる。

ザッポスでは、僕をはじめとして、経営陣やマネジャーたちができるだけ現場の人間に意思決定の権限を委譲するよう、意識的な努力を払っています。例えば、顧客対応に関する意思決定だとしたら、顧客に直に接している人が最適な道を選べるに決まっている。ザッポスでは、基本的に、意思決定はトップ・ダウンではなく、ボトム・アップであるべき、と考えているんです。

社員は、意思決定をする際のガイド、あるいはロードマップとして、コア・バリューを使うことができます。例えば複数の選択肢があったとしたら、そのうちのどれが、コア・バリューに最も合致しているか、を見極めて、意思決定の指標とすることができます。

石塚:
普通の会社では、多くの場合、トップの経営者やマネジャーたちがアイデアを提案し、意思決定をして、それを一般社員に伝えて遂行させる、といういわゆる「トップ・ダウン」のアプローチが取られているのに対して、ザッポスでは、現場の人たちがアイデアを提案して、自発的かつ自主的に遂行する、という「ボトム・アップ」のアプローチが取られていますが、社員からのアイデアを募り、それを実現につなげていくための仕組みやプロセスなどがあるのでしょうか。

Ub|XZ~i[トニー・シェイ:
特に決められた仕組みやプロセスなどというものはありません。もし、何らかのアイデアに関して「是非実現させたい」という情熱をもっている社員がいたら、役職や部門・部署、職種に関係なく、実現にもっていくように行動することを奨励していますし、その方法を必ず見つけられるはずだと考えています。

石塚:
実現したいアイデアがある人は、例えばあなたのようなトップからの承認を得るのですか。あるいは、直属の上司に相談して、承認を得るのでしょうか。

トニー・シェイ:
まず、僕のところには来ないですね。・・・あと、特に上司に相談する必要もありません。例えば、チーム精神を強化する社外活動の一環として、『読書クラブ』をやりたい人がいたら、別に誰にも相談せずに有志を募って始めるでしょう。万事、そんな感じですね。

ザッポス社内で見つけた、顧客満足第一位を獲得したことに関するポスター

石塚:
ザッポスの事業を海外市場に広げる展望はありますか。また、もし広げるとしたら、特定の地域、あるいは国で視野に入れているところはありますか。

トニー・シェイ:
将来的には可能性がないとは言えませんが、当面のところは考えていません。アメリカ国内市場の中だけでも、アパレル・カテゴリーに拡張を始めたばかりですし、しばらくはそれで手いっぱいでしょう。靴とアパレルをあわせて、アメリカ市場だけで売上を50億ドルにまで伸ばすのが当面の目標ですが、それもかなりの長期戦だと考えています。

石塚:
どこか海外市場に進出することを仮定して、ザッポスの既存のカルチャーを中核とした戦略が他の市場にも応用可能だと思いますか。ザッポス・ウェイは、アメリカでは明らかに大きな成功を収めています。ですが、各国や各地域に独自の文化が存在する中で、ザッポスの既存のやり方が通用するのでしょうか。

トニー・シェイ:
僕は、通用すると思っています。国は違っても、みな「人間である」という点では共通していますから。

石塚:
経済が停滞し、「終身雇用制」など、企業経営上のかつての常識が崩れ去り、新しい世代の働き手が生まれている中で、日本の経営者たちも多くの悩みを抱えています。新しい時代の中で、いかに会社を率いていったらよいのか、そう考えて悩んでいる日本の経営者たちに伝えたいメッセージはありますか。

トニー・シェイ:
「社員と、本当の意味での友人になること」でしょうか。社長とかCEOとか、そういう立場に関わらず、エントリー・レベルの社員たちや、現場で働く社員たちと本当の意味での友人になって、腹を割って話をすることで、学べることがたくさんあります。

それと、あともうひとつ、アドバイスを思いつきました。僕の本をひとり千冊ほど買っていただくといいかもしれないですね(笑)。

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