ザッポスCEO、トニー・シェイの父親が語る「家族の結束」

(2011. 1. 13)

トニー・シェイのお父さん、リチャード・シェイとの対話で印象に残ったこと。

それは、トニーの両親が、トニーとその弟たちを育てていく過程で、「できるだけ幅広い体験をさせる」ということにいかに力を注いでいたかです。

ザッポスCEOトニー・シェイの父親でザッポス伝説の中国語訳をしたリチャード・シェイ氏とのインタビュー

『Delivering Happiness(邦訳『ザッポス伝説』)』の中に、トニーとピアノの練習を巡るエピソードが出てきます。

中学生の頃、トニーはピアノ、バイオリン、トランペット、フレンチ・ホーンという四つの楽器を一度に習っていたことがあるそうです。そして、休みの日には、ひとつの楽器の練習に一日一時間を費やすよう親御さんから言い渡されていたというのです。

ひとつの楽器について一時間ですから、一日合計四時間を楽器の練習に費やす計算になります。遊びたい盛りのトニーは、練習を回避する「ある仕掛け」を考案します。

自分が実際に練習しているところをテープに録音して、そのテープをプレイバックすることで練習しているように見せかける、という仕掛けです。自分の部屋に行き、ドアを閉めて、テープをプレイしながら実は本や雑誌を読んでいたといいます。

このエピソードについては、トニーのお母さんは、「トニーが本を面白くするためにでっちあげた話」だと未だに信じているそうです(笑)。話の信憑性はさておき、リチャードは、「音楽だけに固執していたわけではない」ということを強調します。

「音楽だけではなく、トニーが小さい時から、ありとあらゆる経験をさせるように心がけました。そうさせることによって、自分の関心や情熱がどこにあるのかを正しく見極めることができると思いましたし、後々の人生の肥やしにもなると思ったからです」

ブリッジ、チェス、水泳、サッカー、野球、ボーイ・スカウト、スキー、フェンシング、アマチュア無線、マラソン・・・。トニーは幼少の頃から実に多くのことに手を染めたようです。また、本人はあまり話したがりませんが、中国語も流暢に話し、中国のメディアの取材を受けた際は、インタビューに中国語オンリーで答えたそうです。(アメリカでも中国系移民の家庭では、子供を週末に「中国語学校」に送ることはそれほど珍しいことではありませんが、トニーもこの類にもれなかったようです。)

多才な中にも、ひときわ際立っていたのがコンピューター・プログラミングに対するトニーの情熱と才能でした。トニーとコンピューターとの出会いは彼が小学校二年生の時だったそうですが、当時、初めて着手したプロジェクトがゲームのプログラミング。中学生の頃には自前のBBS(電子掲示板)をプログラミングし、大学生になってからは、ハーバードの友人と三人のチームで、世界中から参加した1,000以上のチームを相手にプログラミング・コンペティションに参加、見事、一等賞を勝ち得る快挙も果たしています。

社員と談笑するザッポスCEOトニー・シェイ

『Delivering Happiness』の中に書かれていますが、ザッポスのフルフィルメント・センターを動かしている倉庫管理システムをプログラミングしたのもトニーです。ザッポス独自のサービス哲学に基づいてつくられた、WOW!の倉庫管理システム。その名も「WHISKY(ウィスキー:WareHouse Inventory System in KentuckY)」といいます。どこが特徴なのかということは、ケンタッキー訪問のブログを書くときにあらためてお話しますが、この名前からして、とてもトニーらしいですね。

お父さんのリチャードの話を聞いていると浮かび上がってくるのは、「一度入り込んだらとことんまでのめりこむ、探究心旺盛で負けず嫌いな(自分に克つという意味で・・・)」少年の姿です。

「特に両親の影響は受けていない」という本人の談とはうらはらに、リチャードの話を聞いてみると、「あらゆる体験を共にしてきた密接な家族」だということも心に残りました。

Ub|XZ~i[ブリッジ、チェス、スキー、マラソン・・・。そして極めつけは、リンクエクスチェンジ売却後にトニーが始めた投資会社、ベンチャー・フロッグ時代に、オフィス・ビルの中にあったカフェテリアの運営にトニーの両親が参画したことです。トニーの両親はふたりとも、博士号をもつ超インテリ。リチャードは化学技術者として、そしてお母さんは精神分析医としてれっきとしたキャリアがあったのに、それをあきらめてカフェテリアの運営に着手することにした。・・・それもこれも、「リンクエクスチェンジ時代に、トニーの側にいてやれなかった」空白を埋めるためだったといいます。

現在、お父さんのリチャードはザッポスの中国事業所のヘッドとして働き、トニーの弟二人もザッポスで働いていますから、つくづく結束の固い家族だと思います。

本やインタビューで、何かというとトニーは、「自分の両親は未だに僕が博士号を取ることを望んでいる」なんて言い方をするのですが、今回、リチャードと話してみて、やっぱり「自慢の息子」に対する「親の誇り」を嗅ぎ取ったのでした。

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