『ザッポスの奇跡』出版以降、ザッポスについてもっと学びたいという声が数多く寄せられている。そういった皆さんの声を受けて、現在、ザッポス社と協働で行うセミナープログラムの企画を着々と進めている。企業文化というテーマを中心に、一般社員を対象に行うもの、また、経営者や役員クラスの人たちを対象に行うもの、あるいは、コンタクトセンター、人事、マーケティング等など、特定の専門分野に焦点を絞って行うものなど、いろいろなタイプを考えている。
今回行ったのは、ある企業の一般社員の皆さんを主な対象としたもので、56名の参加となった。本の出版後、我々が主催する初のザッポス・セミナーであり、朝の9時から夕方の5時半まで、笑いや感動いっぱいの忘れ難いプログラムとなった。
ザッポス社の全面的な協力を得、企画したのは次のようなスケジュール。参加者の方々は、前日の午後3時に日本からラスベガス入りし、時差ボケの真っ只中での受講だったから、かなりハードな時間割だったと思うが、講演あり、ザッポス社見学あり、ザッポス社のミドル・マネジャー達を迎えてのパネル・ディスカッションありと、息もつかせぬ(笑)プログラミングでエキサイトメントを持続することができたように思う。〈午前の部〉
9時15分~10時15分
石塚による講演(「個」客が力をつけた、「新しい世界」において、ザッポスという会社がなぜここまで成長し、なぜここまで注目を浴びているのか、社会・市場背景からその洞察・分析)
10時30分~11時30分
ザッポス・マネジメントによる講演(ザッポスのビジネス、および経営の中核となる考え方に関する、概略的スピーチ)
〈午後の部〉
1時45分~3時15分
ザッポス社見学
4時~5時
ザッポス社CLT(コンタクトセンター)、人事、パイプライン(企業内大学)部門より、ミドル・マネジャー参加によるパネル・ディスカッションおよび自由質疑応答
ザッポス社見学には、56名という大所帯を28人ずつ2つのグループに分けて臨んだのだが、ザッポスの社員の皆さんは、その規模に面食らうことも臆することもなく、四方八方から爽やかな挨拶の声をかけたり、カウベルを鳴らしたりなどして歓待してくれた。しかし、これが「パフォーマンス」ではなく、「いつものこと、ありのままの姿」であるのがザッポスのすごいところだ。
午後の部のパネル・ディスカッション/質疑応答には、熱心な参加者の皆さんから、一時間の枠に到底収まりきれないほどたくさんの質問が寄せられ白熱した。なかでも、私の印象に残ったのは次のような質問だ。
「WOW(驚嘆)のサービスを提供した社員に対して、社内ではどのように評価し、また、どのような形で褒賞を与えているのですか」
「入社後4週間のトレーニングのざっくりとした内容を教えてください」
「ザッポス社での、『トレーナー』に要求される資質にはどんなものがありますか」
「顧客の声を業務改善にどのように活かしているのですか」
ところで、パネラーとしてCLT(コンタクトセンター)からは2人のチーム・リーダーが参加してくれた。ザッポスのCLT(カスタマー・ロイヤルティ・チーム)のチーム・リーダーは、「TLC」と呼ばれる。ジョークのようだが、単に「CLT」という単語をひっくり返したのではない。「TLC」とは、「Tender Loving Care」の頭文字をとったもの。「思いやりのこもった、痒いところに手が届く的ケア」という意味だ。これは、とてもザッポスらしい。チーム・リーダーは、ただ「業務を監督する人」ではなく、チーム・メンバーが気持ちよく仕事をし、顧客や同僚にハピネスを届けることができるように世話をやく人なのだ。また、チーム・リーダーは、「文化の守り手」でもある。彼らの言葉、そして何より「在り方」からそれが溢れ出ていた。
もうひとつ心に残ったのが、リーダーの仕事は、人を「モチベート(Motivate)」するのではなく、「インスパイヤー(Inspire)」することであるというザッポスの考え方だ。「モチベート」というのは、人が何かをするように促すことだが、「インスパイヤー」とは、人の心の中に火をつけ、その人自身が、自発的に「やりたい」と奮い立つようにすること。そういった「環境」をつくることこそが、リーダーの仕事だという言葉に、いたく感心させられた。新しく生まれ変わる市場の中で、企業がいかに「個」を最大活用するか、顧客に、そして社員に、「感動体験」を与えることができるかが生存の分かれ目になっているが、いずれの点をとっても、ザッポスはこれらを「仕組み化」して、時代の先端を行っている。私にとっても、ザッポスの先進性をあらためて確信した一日だったが、日本からの参加者の皆さんにとっても、「学び」だけではなく、「インスピレーション」を得られた一日であったならと願っている。5月にもセミナー開催を予定しているが、参加希望者の方々の業種や職種、要望にしっかり耳を傾け、成果の最大化を狙ったセミナーにしたいと目論んでいる。
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