米『TIME』誌、「パーソン・オブ・ジ・イヤー」はマーク・ザッカーバーグ -ソーシャル時代、本格化の予兆②-

2010年は、「ソーシャル時代元年」とでも呼ぶべき年でした。フェイスブックなど、ウェブ上のソーシャル・テクノロジーの影響で、生活者の情報伝播力、発言力、影響力、そして、「組織力」が目まぐるしく増大した結果、生活のあらゆる側面で「ソーシャル化」という現象が起こってきました。
私は、2011年には、この「ソーシャル化」がますます加速するのではないかと思っています。その結果、流通業をはじめ企業は、「ソーシャル化」に伴う生活者の行動変化や要望に応えざるを得なくなると思います。
タイム誌の表紙を飾るフェイスブック創始者マーク・ザッカーバーグでも、誰もが、「フェイスブック」にならなくてはならない、ということではありません。ソーシャル・テクノロジーを導入して・・・というだけの問題ではなくて、ソーシャル時代にふさわしい企業のあり方、考え方というのが、今、問われているということだと思うのです。「ソーシャル」といわれると、すぐにテクノロジーの話だと思って尻込みしてしまう流通業の人たちは、特にこれを自覚する必要があると思います。
ソーシャル時代にふさわしい考え方とはどういう考え方かというと、例えば、「組織化された顧客」、つまり生活者の力の膨大さを認識することだと思います。「顧客エクスペリエンス」とはもはや、企業の力だけで形づくるものではありません。フェイスブックやツイッターや、あるいはアマゾンなどを見てもわかりますが、今日、生活者は、自分と同じ立場にある生活者が提供する情報やアドバイスにより大きく依存する傾向にあります。専門家や売り手が提供する商品レビューより、生活者が提供する商品レビューの方が信用できる。あるいは、コールセンターに電話したり、企業のFAQを見るより、顧客フォーラムに行った方がより詳細な情報がより速く得られる・・・などといった声がよく聞かれます。企業が提供するエクスペリエンスより、顧客同士が提供するエクスペリエンスの方が優れている、といったことが多々あるのです。企業は、このような顧客パワーを認識するべきですし、それに応える仕組みをつくることに注力すべきだと思います。
そして、企業の「あり方」としては、顧客についてより深く知る姿勢が求められていると思います。それも、常に顧客の声を聞いている姿勢が求められているということです。何か特別な「イベント」として顧客の声を聞く場を設けるのではない。むしろ、オン/オフライン含めてあらゆる方法を駆使し、顧客の声をいつも聞き続ける体制をもつ、ということだと思います。それも、今までの倍どころか、何十倍も、ということです。
さらに、VOC(ボイス・オブ・カスタマー)といっても、ただ単に顧客の声を集計して定量化すればよいというものではない。顧客エクスペリエンスというのは、煮詰めれば「感情」。ザッポスのCEOトニー・シェイも言っているように、お客さんにとっては、「どんな気持ちにさせてくれたか」が重要なのです。だから、ただ「データをとっておしまい」ということではなくて、「お客さんの感情」に触れて、エンパシー(共感する気持ち)や姿勢を養うことが必要です。「企業人」としての自分ではなく、「生活者」としての自分に立ち返るということです。
「顧客への共感を育てる」という点では、アメリカのオフィス用品流通では最大のステープルズという会社が、かなり前から先進的な試みをやってきました。前述の著書『売れる仕組みに革命が起きる』の中に詳しく書いていますが、この会社では、ボストン郊外にある本社で、月四回程度、有志社員が大講堂に集い、コンタクトセンターに入ってくるコールを一時間ライブで傍聴する、ということをやっています。本社で働いている人間なら、所属部門や役職に関わらず誰でも参加できるのですが、これには、CEOなどトップの人間も頻繁に参加しているということです。顧客を「ナンバー(頭数とか売上)」としてではなく、「個々の人間」として扱う。顧客の声を生で聴くことによって、顧客の怒りやフラストレーション、あるいは喜びを直に経験するのだそうです。
これは、莫大な資金投資や大掛かりなシステム導入を必要とすることではありません。「お客様を徹底的に理解する」という意思と姿勢と創造性さえあれば、どんな企業にもできることです。
フェイスブックの話からはだいぶんそれましたが、「ソーシャルの時代」にあって、テクノロジーだけにこだわったり、テクノロジーを障壁と考えるのではなく、「ソーシャル」という言葉の原点にかえって、「生活者主体の」ビジネス構想や価値創造を考えていく必要があると思うのです。そういった意味では、2011年は、生活者とつながる企業とそうでない企業との間に大きな格差が生まれる年になるのではないかと思っています。