「グルーポン系」ビジネス成功の秘密

アメリカの「グルーポン」に代表される「クーポン共同購入サービス」が大はやりだ。同じくアメリカの会社で、グルーポンとその同業者たちが提供するプロモーションを集積して配信しているYipitという会社があるが、そのYipitの共同創設者ヴァカンティ氏が先日面白いブログを書いていた。
設立から2年も経たないいわゆる「スタートアップ企業」のグルーポンは、今年、年商5億ドルに達するといわれている。そしてさらに、来年は、10億ドルを突破することも夢ではないという。この快挙の秘密は何なのか?
同氏は、その答えとして次の二つを挙げている。ひとつは、グルーポンが、短期間にして、900万人という莫大な数のユーザーを獲得することに成功したこと。もうひとつは、それらのユーザーが、「ローカルで得する買い物情報を提供してくれるサイト」として、グルーポンに絶大な信頼を寄せているということである。
グルーポンの成功のキーワードである、「莫大な数のユーザー」と「信頼」と「ローカル」。ヴァカンティ氏のブログで興味深いのは、グルーポンに対抗しえるビジネスとして、この三つの要素を併せ持っているのは誰か・・・と発想を転換した点である。すると、浮かびあがってくるのは、「ローカル・メディア」。つまり、タウン誌やフリーペーパーなど、ローカル市場に密着した新聞、雑誌、あるいはウェブサイトなどの媒体である。
こういった媒体であれば地元の認知度もあり、スモールビジネスからの信頼もある。信頼があれば、スモールビジネスも、こうした媒体を通じてプロモーションを展開することを厭わないだろう。グルーポンがライバル視すべきなのは、「リビングソーシャル」や「ティッパー」などのグルーポン系サイトではなく、実は、地域に密着したメディアだ、というのが、ヴァカンティ氏の主張なのだ。
アメリカでは、ワシントン・ポストなどの地方紙、SFゲート(サンフランシスコのフリーペーパー)、そしてイェルプなどのユーザー参加型レビュー投稿サイトなど、「ローカル」に力をもつメディア企業がこぞってグルーポン系サービスの導入を進めている。「グルーポン系サービス」が模倣されやすく、参入障壁が低いことは、グルーポンのビジネス・モデルの弱点として度々指摘されてきた。米国だけでも200、全世界では既に500も存在するという「グルーポン系サービス」だが、これらの便乗サービスがグルーポンの成功を再現する、あるいは超越するためには、いくつか押さえるべきポイントがある。
第一に、「追加収入」の獲得という短期的目標にフォーカスを置くのではなく、「新規ユーザー開拓」や「既存ユーザーのロイヤルティ育成」などの長期的目標にフォーカスを置くこと。これは、広告主と読者という二種類の顧客をもつメディア企業にとっては、非常に重要なポイントだ。昨今の顧客は、「宣伝」されることを嫌う。従来のやり方で広告をとり、読者に「売る」ことを主眼にメッセージを発信していたのでは、ロイヤルティは低下するばかりだ。代わりに、「読者サービス」の一環として、「読者の役に立つ」とか、「読者を楽しませる」ということを主眼にグルーポン系サービスを展開することによって、媒体に対する信頼を高め、ただの収入源ではなく、「ファン」をつくることができる。
第二に、顧客を「トライブ(部族)」として位置づけ、プロモーションのエクスクルーシビティ(特権的要素)とギフト(ご褒美)的要素を強調すること。グルーポンをはじめ、アメリカで成功しているフラッシュ・セールス・サイト(期間限定プロモーション・サイト)は、このポイントを実にうまく訴求している。24時間で「期限切れ」になってしまうグルーポンのプロモーションは、常にサイトをチェックしている、あるいは任意で日に一度のメールを受け取る「内輪」であるからこそ利用できるものだ。
長期的な視野で、利益よりもまず、「顧客によかれ」を最優先したり、また、顧客と「コミュニティ(あるいはトライブ)」をつくっていったりという考え方は、近年のアメリカで生活者の熱烈な支持を集めているザッポスのようなビジネスの考え方にも共通するところがある。特に、顧客を「トライブ」として捉えるという観点では、グルーポンをはじめ、先日アマゾンに買収されたウート(一日一品限定のフラッシュ・セールス・サイト)など、考え抜かれたモデル設計がされている。ここでは、従来型メディアを例に挙げているが、メディアに限らず、従来型ビジネスが、このような「長期的視野」と「コミュニティ(トライブ)」の考え方から学べるところは多い。