トニー・シェイとの思い出:第6回トニー・シェイ来日特別チャリティ講演―東京、日本橋が「幸せ」に包まれた日

トニー・シェイとの思い出
第6回:トニー・シェイ来日特別チャリティ講演―東京、日本橋が「幸せ」に包まれた日(2011年11月21日)

2011年11月21日(月)夕刻、私は日本橋三井ホールの舞台裏にいた。

ほぼ一年越しで企画してきた『ザッポス社CEOトニー・シェイ来日特別チャリティ講演』の幕が上がる直前だった。当初は4月の中旬に予定していたのが東日本大震災のために延期となったが、関係者の努力と日本のビジネス界の皆さんの温かい支援を受け、プロジェクトは実現した。

チャリティ・イベントの舞台

会場の様子

三時間で一万円はやや高い・・・と渋る声もちらほらあったが、日本全国から六百人近くが集まり、熱気あふれるイベントとなった。ルーム・トゥー・リード・ジャパンの協力を得ての完全チャリティ・イベント。収益金の全額が寄付され、内戦で甚大な被害を受けたスリランカ北部のマナー県の小中一貫教育学校に新校舎を建てることができた。

校舎に埋め込まれた寄贈記念プレートには次のように記されている(以下拙訳)。

『この校舎は地域コミュニティの人々、ルーム・トゥー・リード、石塚しのぶ、トニー・シェイと友人たちの協力により建てられました。学びの愛と力でもって、今後、世界に幸せを届けるであろうスリランカの子供たちに捧げます』

「ルーム・トゥー・リード」を選んだのには理由がある。イベントの企画を持ちかけた当初からトニーは講演料にはまったく関心がなく「チャリティにでも寄付して」ということだった。そんなトニーの心意気に賛同し、主催者である私たちも一切利益を追求しない完全チャリティ・イベントにしようと決意したが、チャリティなら何でもいいというわけではなく、できるだけトニーの人柄や関心にマッチしたものにしたかった。ザッポスといえば、ラスベガスにある小児がん病棟を社員が定期的に訪れて読み聞かせをしたり、ハロウィンなどのスペシャル・イベントをやったりとボランティア活動に力を入れていた。それに、トニー自身の「学び」への情熱を考慮し、「子供+学び」ということでルーム・トゥー・リードほど的確な協賛団体はないと判断したのだ。早速、サンフランシスコのダウンタウンにある米ルーム・トゥー・リードの本部を訪れて相談したら「ぜひ」と日本事務局を紹介され、話はトントン拍子に進んだ。

ボランティアの皆さんとダイナ・サーチ・メンバー
(ルーム・トゥー・リードのボランティアの皆さんと)

私が率いるダイナ・サーチという会社は社員十名程度の小さな会社であり、当時、もう既に「セレブリティCEO」のステータスに達していたトニー・シェイをアメリカから招き、五百人を超える規模のイベントを主催するのにはかなりの覚悟と信念とエネルギーを必要とした。私もスタッフも我ながらよくやったと思う。しかし、関係者から参加者まで、多くの人たちに与えたインパクトを思えば、あのイベントはやる価値が大いにあったと今でも信じている。トニー・シェイも、共演者でトニーの「第二の脳」として知られていたジェン・リムも私たちの期待を超え、覇気みなぎる素晴らしいプレゼンをしてくれた。

来日メンバーの4人
(来日メンバーの4人)

トニー・シェイ氏とジェン・リム氏
(トニー・シェイ氏/写真左とジェン・リム氏/写真右)

スピーチの中でトニーは私たちに問う。「たとえ一銭も儲からないとしても、この先十年間、情熱を傾けて取り組みたいことは何だろう?」と。

あれから十年が経とうとしている。そう考えると、私はその質問に胸を突かれる。トニーに代わり、私は自分に、そしてこれを読んでいる皆さんに次の質問を投げかけたい。この十年間、損得勘定抜きで、ただ情熱を傾けて何かに打ち込む・・・、そんな生き方ができただろうか? この先十年間、全身全霊をかけて、情熱を注いで取り組みたいことは、いったい何だろうか?

それは、トニー・シェイが私たちに投げかけ続ける挑戦なのである。

次回につづく)

後記:イベントの詳細は、トニーのスピーチ動画をはじめ、ほとんど一部始終がアーカイブ・ページにドキュメント化されているので、興味がある方はぜひそちらをチェックしてみていただきたい。

ダイナ・サーチ代表・石塚しのぶ

「トニー・シェイとの思い出」関連記事を読む
第1回トニー・シェイとの出会い
第2回ザッポス本社に初めての訪問
第3回ザッポス社滞在―『ザッポスの奇跡』を書くまで
第4回『ザッポスの奇跡』出版とネット・マーケティング
第5回父、リチャード・シェイ氏との出逢い
第7回「ダウンタウン・プロジェクト」
第8回新社屋(ラスベガス旧市庁舎)のオープニング・セレモニー
第9回ザッポスと「セルフ・オーガニゼーション」
第10回ビジネスはアートである―アーティストとしてのトニー・シェイ