2018年、「企業文化」が米企業取締役会の最大の関心事に

企業文化の監視がガバナンスの一環に

近年、アメリカでは、ライド・シェア・サービス大手のウーバーや金融大手のウェルス・ファーゴなどといった企業の不祥事が相次ぎ、その根源として粗悪な企業文化の存在が大いにクローズアップされました。その結果、企業の取締役会が企業文化の監視をガバナンスの一環として捉え、役員会内に「委員会」を設けるなどしてその監視に率先して取り組む動きが出てきています。

それは、「悪い企業文化」は会社の評判を傷つけ、優秀な人材の確保を困難にし、結果として会社の業績にもダメージを与えるものだからです。従って、会社が健全な文化を育成し、維持できているかどうかを継続的に監視し、確認することが、取締役会の重要な役割のひとつであると考えられるようになってきたというわけです。

「悪い企業文化」の対価

ウーバーの例を見てみても、女性蔑視を筆頭として人権・倫理意識の欠如に彩られた「有毒な」ウーバーの企業文化は、同社であからさまなハラスメント被害を被った女性エンジニアのブログをきっかけにメディアに取り上げられ、事態の深刻さが明るみに出て以来、同社内のすべてのレベルで解雇や辞職による人材流出を引き起こしています。そればかりではなく、顧客の多くがウーバーの利用をやめ競合のリフトに乗り換えるなど業績指標にも目に見えた影響を及ぼしています。つい最近では、ウーバーの主要市場のひとつである英国ロンドン市が「ウーバーの営業許可を更新しない」と宣言したことを受けて、新任CEOのダラ・コスロシャフィ氏は、社員に宛てたメモの中で「悪評の対価は重い。今後は、すべてにおいて誠意をもって行動し、行動を通して信頼を築いていかねばならない」とコメントしています。

興味深いのは、ウーバーの「企業文化の問題点」は、先述の女性エンジニアの告発をきかっけに明るみに出る以前にも、ビジネスの関係者の間で時折話題に上る「周知の事実」であったということです。ウーバーの経営陣をはじめとして「問題行動」は以前からあったのです。取締役会もそれを知らなかったはずがありません。ただ、これまでは、「財務的に高い評価さえ受けていればなんでもあり」と、そういった「毒」の存在を看過する風潮があったということです。しかし、「企業文化」というそれ自体は定量化し難いものが、会社の評判や信用を傷つけ、業績にダメージを与え、外部評価にも著しく影響することが露呈してはじめて、取締役会が重い腰を上げ、自らその取り締まりに乗り出さないわけにはいられなくなったということなのです。

「健全な企業文化」維持の取り組みがスタンダードに

現在、米国コーポレート・ガバナンスの啓もう団体が、企業文化の監査に関する研究・討議を進めているようですが、今後数年のうちに、従業員の声を聴くことを目的とした定期的なアンケート調査や、内部告発の仕組みの整備、企業文化にマイナスの影響を与える人事評価や褒賞制度の見直しなど、企業文化を健全に保つための一連の取り組みが会社運営の「常識」としてあたりまえに遂行されるようになっていくでしょう。健全な企業文化の育成は、単に「良い会社」をつくるというだけではなく、会社の業績や、優秀な人材の確保や、顧客や市場の信頼の獲得につながり、会社の成功を実質的に支援するものだからです。

コア・バリュー経営の観点からいえば、企業文化の礎となる「コア・パーパス(会社の社会的存在意義)」や「コア・バリュー(会社の中核となる価値観)」の定義と浸透が、健全な会社を築いていくうえでの必須条件としてますます重要性を増すことになります。「野放し」の企業文化は、「会社が目指す文化/意図する文化」には決してなり得ません。企業価値を最大化する「健全な企業文化」を育成するためには、まず「コア・パーパス」と「コア・バリュー」という基盤づくりから着手されねばならない。その真実に、利益偏重主義と称されてきた「コーポレート・アメリカ」も真剣に向き合い始めているのです。