マクドナルドの「メニュー刷新」のニュースに思うこと

売上が伸び悩む中で、マクドナルドがメニュー(品揃え)の大々的な見直しを行っている、というニュースが、先日、米ウォールストリートジャーナル紙で報道されました。私はフードサービス業界の事情にはまったく詳しくないので、また別の視点からこのニュースについてコメントしてみたいと思います。

必要なのは商品イノベーションばかりではなく、サービス・イノベーション?

「膨れ上がってフォーカスを欠いたメニューを見直し、より的を絞ったセレクションに。食材に気を配り、よりシンプルで素材を活かした食事を提供する」。将来的なメニューの方向性としては、短くまとめるとこのようになるかもしれません。

一部の店舗では、タブレットPCなどのインターフェイスを使い、個々の顧客がハンバーガーのトッピングを選べるようにするそうです。これは、近年流行りの高級カスタム・ハンバーガー・ショップの流れを汲んでのことでしょう。

他にも、価格戦略の見直しなど、巻き返しを狙った様々な方策について語られていましたが、その中で私の注意を引いた言葉がありました。「市場の変化により敏速に対応できる企業文化をつくる」というものです。具体的には、各地域の管理者により大きな権限を与え、各ローカル市場のテイストに合わせたメニューを提供するということらしいです。その他に、メニューだけでなく販促キャンペーンにおいてもローカル市場に特化したものを提供していくということでした。

このように、主に「商品(メニュー)におけるイノベーション」に焦点を置いて語られていますが、この新しい時代に真の意味でお客様に愛される、独自性豊かなブランドをつくるためには、さらに一歩踏み込んだところまでいかなくてはダメなのではないかなと、まったくの私見ですがそう感じたのです。

地域/店舗単位の権限委譲では不十分

チェーン店舗を展開する企業が中央集権から各地域/店舗に裁量権を与える分権型へと組織体制を変えるのはさほど新しいことではありません。これを実にうまく実践している会社としてはホール・フーズ・マーケットが頭に浮かびます。

ホール・フーズ・マーケットは、品揃えや商品イノベーション、サービス・イノベーションの面でも、また、緊急時の対応の面でも、各店舗に独立した意思決定権を与えていることで有名です。店舗ごとにオリジナル商品があったり、独自のサービスがあったり。地域によっては、地ビールと軽食をふるまうビストロがお店の中にあるところもありますが、これも一社員のアイデアが採択されて試験的に展開され、他の地域への拡張が模索されているケースです。

また、こういうエピソードもあります。ある冬の夕方、米ニューイングランド地方が大雪に見舞われた時のことです。被害で店舗が停電し、レジが使えなくなってしまいました。ちょうどクリスマス間近だということもあり、店舗は買い物客でごった返していました。一時休止してしまったレジには、家路を急ぐ顧客が長蛇の列を作っています。復旧の見通しがつかない中、この店舗の支配人はある「英断」を下しました。レジに並んでいる顧客に、買い物かごの中の品物をタダで持って帰ってもらうことにしたのです。外は雪嵐がますます猛威を振るっています。復旧の見通しが立たないまま、顧客に足止めを強いるわけにはいかないという判断でした。

レジの店員は次々と商品を買い物袋に詰め、驚きで言葉を失う顧客を送りだしました。結局、一時間弱のうちに電気は復旧したのですが、それまでの間に、この店舗は決して少ないとはいえない額の損失を出したのです。

テキサス州オースティンにあるホール・フーズ・マーケットの本社がこの出来事について知ったのは、TVのニュース報道を通してでした。感極まった顧客が、地元のTV局に電話をかけ事の顛末を語ったのです。顧客志向を究極まで突き詰めたその行為はローカル・ニュースに取り上げられ、世間はホール・フーズ・マーケットの善行を絶賛しました。もちろん、本社はこの店舗支配人の判断を咎めるどころか、ホール・フーズ・マーケットの価値観を具現化する行動として手放しの称賛を贈ったのです。

徹底した「権限委譲」が生むサービス伝説

もし、店舗が本社の判断を待たずに独自の決定を下せるというホール・フーズ・マーケットのポリシーがなかったら、このサービス伝説は生まれることはなかったでしょう。そして、ホール・フーズ・マーケットの場合は、こういった「権限委譲」が地域や店舗単位だけではなく、「個々の従業員」単位まで広がっているのです。個々のお客様の要望に応え、各々の従業員がその都度的確な判断を下して、心に響くサービスを提供できるからこそ、「顧客に愛されるお店(会社)」として自らを確立できているのです。

二年ほど前でしたが、かのウォルマートも、「社内での価値観の共有に力を入れ、現場に権限委譲することで「個」に対応するサービスの実現を目指す」という方針を発表しましたが、具体化はまだおぼつかないようです。企業が肥大化すると、組織の末端(つまり、現場で働く個々の従業員)にまで裁量権を渡すことは極めて困難になるのでしょうが、顧客のニーズが多様化し、ある意味、顧客の「わがまま度」が増している今日では、地域単位、店舗単位に留まらず、「個」の従業員単位への権限委譲と、それを通したサービス・イノベーションの活性化が必要不可欠と言えそうです。