しあわせ創造の企画事業会社、フェリシモさんを訪問してきました

「通販事業」ではなく、しあわせ創造の企画事業

日本に一か月ほど出張していましたが、滞在中に、神戸に本社を構えるフェリシモ(Felissimo)さんを訪ね、社長の矢崎さんにお話を伺うことができました。

仕事柄、たくさんの会社を訪問しますが、オフィスに一歩足を踏み入れただけで、その空間がいかに会社の性格を雄弁に物語るかに驚かされます。フェリシモさんの場合は、ワンフロアを使ったガラス張りのミーティングエリア。テーブルやソファや椅子が思い思いに配置され、何組もの打ち合わせがそこかしこで同時進行しています。飾り気なく、それでいてスタイリッシュな白の空間に、クリエイティブなエネルギーがみなぎる様子が、フェリシモという会社の企業文化を象徴しているように感じました。

さて、フェリシモさんといえば、アパレルや小物、生活雑貨などをカタログやネットで売っている通販の会社、としてご存じの方も多いでしょう。

しかし、フェリシモというのは、単に「通販」の会社や、「流通業」という定義では括りきれない、もっと壮大なビジョンをもって運営されている会社なのだなあ、ということを、今回、矢崎さんのお話を聞いて実感しました。

「フェリシモは、ものづくりをしているがメーカーではありません。また、流通業者ではありますが、従来型の店舗小売業者のように、『店舗』というものにも縛られません。『ダイレクト・マーケティング』を通して、日本じゅう、あるいは世界じゅうのお客様に直接、価値を提供することができます」

そして、フェリシモが提供する「価値」とは、中核価値である「ともにしあわせになるしあわせ」なのです。それを実現していくうえで、「事業性、独創性、社会性の融合」を考え方の基盤としています。

25年前に矢崎さんがこの考え方を唱え始めた時にはあまり理解されず、目の前で首を傾げられることや揶揄されることも多かったといいます。しかし、四半世紀が経った今、フェリシモは、「しあわせ創造の企画事業会社」として、これからの企業が歩んでいくべき方向性の道しるべとなっているのです。

 

「売れるもの」をつくるのではなく、「自分たちの信じるもの」をつくる

社長の矢崎さんは、同社の採用情報ページで、フェリシモは「お客さまおひとりおひとりに対して、直接自分たちの信じるものを創り出し提供するダイレクト・マーケティング事業」であると語っています。この「自分たちの信じるもの」というのが肝です。

そのために、大切にしなくてはいけないのは、「売れるものをつくろう」と考えるのではなく、「自分たちが好きなものをつくろう」と考えることだ、と矢崎さんは話してくれました。だからこそ、フェリシモが社員に求めるのは、「ものづくりに対する情熱」、「個性(何が好きか/何をしたいか)の表現」、「柔軟性」だそうです。こういった条件を備えた社員を集めるために、採用にはかなりの時間とエネルギーを注いでいるそうです。

矢崎さんの著書『ともにしあわせになるしあわせ~フェリシモで生まれた暮らしと世の中を変える仕事』に詳細は書いてありますが、フェリシモの採用プロセスの中に、「自分カタログ」というものがあります(フェリシモの哲学や事業について知りたい方は、ぜひこの本を読んでみてください!)。自分を表現するカタログを、A4サイズ、20ページくらいのフォーマットで、10日間くらいで作成してもらうのだそうです。その時点で、やる気のない人は脱落していきますし、熱意のない人は生半可なカタログしか作れないのですぐに見分けることができるそうです。フェリシモという会社が、働く人の情熱や感性(感じる力)、自分の想いを表現する力(伝える力)をいかに重視しているかが、この選考方法からもよくわかります。

もうひとつ、お話の中で刺激的だったのは、「部活」という制度です。どんなに、各社員に「好きなこと」をやって欲しいと願っても、会社という組織の中では役割分担も必要ですし、みんなが好きなことだけをやっているわけにはいきません。そういった現実の中で、「部活」とは、会社で各々が自分の役割を果たしつつも、自分の「好き」や「想い」を追求できるようにという仕組みだそうです。週に一度、水曜日の午前中は自分のやりたい分野の仕事ができるという制度です。例えば猫好きのためには、「猫部」があります。猫グッズの企画や、猫部のウェブサイトの運営、動物保護と飼い主探しのための基金活動などを行っているそうです。働く人の情熱を事業化する、素晴らしい仕組みだと思います。

 

ともに夢を見る企業、フェリシモ

「企業と顧客」=「売り手と買い手」という関係ではなく、お客様と夢や世界観を共有・共創していく。矢崎さんの言葉を借りれば、「お客さまとともに時代の夢や社会の課題にトータルに取り組んでいく」というフェリシモの立ち位置は、まさに、私がこれまで定義してきたところの「未来企業(=社員、顧客、社会と共に夢を見る企業)」だと思います。そのビジョンをここまで現実のものにしているフェリシモという会社の存在はとても刺激的です。

インタビューの終わりのほうに、今、アメリカのビジネス界で話題になっている「スモール・ジャイアンツ」(=「大きくなること」ではなく、「偉大な会社になること」を目指してぐんぐん成長している優良中小企業群)のお話をしましたが、矢崎さんとしては、売上5兆円の会社がひとつあるよりは、50億円売り上げる会社が1,000社あったほうがよい、と考えているそうです。「大きくなること」には、顧客の視点から考えても、また事業的に考えてもあまり意味がない。「大きい会社」は「万人受け」を狙うから、魅力度は低くなる。それにひきかえ、小さい会社は「魅力度ナンバーワン」をとことんまで追求できる。「グローバル・ニッチ」で一番になれる。そんな言葉を聴いて、激しく共感するとともに、心が奮い立つ想いがしました。

今でこそ、「ソーシャル・キャピタリズム(社会意識の高い資本主義)」などという言葉が出回り、事業を通して社会貢献する企業が話題になっていますが、フェリシモでは、月一口100円の寄付を顧客から募り、集まった基金で植林を行うという「フェリシモの森」という活動をなんと24年前からやっているそうです。「その頃から、生活者の間にはもう既に社会貢献という意識があったのです。企業がやっとそれに追いついただけです」と矢崎さんは言います。誰かと共に幸せになること、それが人間にとっての究極の幸せだと思いますが、身近な人だけでなく、世界のどこかにいる見知らぬ人と「ともにしあわせになるしあわせ」。そのソリューション(すべ)を提供していることが、フェリシモの究極の付加価値であり、顧客に熱烈に愛されるゆえんなのだなあ、と思ったのでした。