「人の心を動かすサービス」が世の中を救う

先日(もう一週間前になりますが)、3週間の日本出張を終えて、ロサンゼルスに戻ってきました。

とにかく暑かった日本と、朝晩は涼しいくらいのロスの気候のギャップに今さらながら驚かされています。

今回は期間が長かったので、時差ボケも少なからずあるのですが、ジム通いを再開し、一日も早くいつものペースに戻れるよう、がんばっています。

さて、今回は、日本の元気の良い会社さんを訪問したり、経営者やリーダーの皆さんとお話したりする機会をいくつも頂きました。



出張を終えての気づきは、「『コア・バリュー』というものを創って、それに則った会社経営を行っている会社さんが日本にもたくさん出現している」ということです。もちろん、「コア・バリュー」という言葉は使っていなくても、何かしら「信じるもの」や「こだわり」を掲げ、それを中核に働く人たちの心を束ね、お客様の支援を集めている会社はもっとたくさんあります。

中には、拙著『ザッポスの奇跡』を新入社員全員に読ませるようにしています、という会社さんもあり、非常にありがたいことだと感謝するとともに、今後、「幸せな世の中をつくる」ことを目指す会社経営というものが主流になっていくのかなあ、とその予兆を感じ、大いに元気づけられました。

ところで、今回、いろいろな場面で日本のサービスを体験して、あらためて思ったことは、「日本という国のサービス業の丁寧さは、世界一だ」ということでした。

「丁寧さ」という言葉がぴったりくるかどうかわからないのですが、「礼儀正しさ」と言い換えることもできるでしょうか。サービス業における基本的なマナーの水準が高い、ということなのでしょうか。とにかく、だいたいどこに行っても、おしなべて、「気持ちの良いサービス」が受けられる、という点では、日本という国は優れているなあとあらためて思ったのです。

しかし、これが、「究極のサービス」かというと、それはまだまだ疑問です。日本のビジネスの体質もあるのでしょうが、日本のサービスの現場では、お客様の視点から見ると、まだまだ「融通が利かない」と感じることがよくあります。(もちろん、みんながみんな、ではありません。こちらが頭が下がるような、痒いところに手が届くような用意周到なサービスを提供しているところもあります。)

これは恐らく、「マニュアルどおりに遂行しなくてはならない」、「上の指示に従わなければならない」などといった仕組みが根底にあり、権限委譲の難しさの問題が多々あるのでしょう。

しかし、「マニュアル」や「トップダウンの指令」に基づくサービス提供を、「コア・バリュー」を柱とした現場の自由裁量によるサービス体験創造に置き換え、これを、どうにかして、日本の強みである「丁寧さ」や「礼儀正しさ」、「基本的なマナーの良さ」と組み合わせることができたなら、日本は、世界最強のサービス大国になれるのではないか、と大きな夢と希望を抱いたのでした。

出張中に素晴らしい話を聞きました。私の知人に病気の治療のため日米間を定期的に行き来している方がいらっしゃいます。ある時、その方が日本の某航空会社を利用され、アメリカに向かう飛行機の中で、たまたま客室乗務員と会話に興じられた際に、その事情を話されたらしいのですが、その後、目的地に着く前に、なんと、折鶴のレイ(首飾り)をプレゼントされたというのです。パイロットをはじめ、乗務員全員が、ひとり一羽ずつ、思いをこめて折りました、きっとよくなってくださいね、とプレゼントされ、思わず、目頭が熱くなり、感激で胸が詰まった、とその方は話しておられました。まさに、感動のサービスですね。

ただのビジネス・トランスアクションとしてのサービスは乏しいものです。しかし、人の心を動かすサービス体験は、受け手の心も、送り手の心も豊かにします。そして、ひいては、幸せな世の中を創ることにつながるものだと、私は思うのです。そのためには、各々の会社が価値観(コア・バリュー)を定め、それを基盤に働く人の判断基準を統一して、日々の意思決定を現場の裁量に委ねていくこと、つまり、「コア・バリュー経営」がひとつの有効な方法であると、私は思っています。

「コア・バリュー経営」を主題に話すことの多いトリップでしたが、多くの方に興味をもっていただくことができ、私もいろいろと刺激を受け、活力を蓄えることのできた三週間でした。

次の出張は十一月頃ですが、それまで再び勢いをつけて頑張っていきます。