美味しい「食」の追及で、世界を変える

ザッポスや、ホール・フーズ・マーケット、パタゴニアなど・・・これまで私がブログで紹介してきた会社の多くは商品やサービスを生活者と直接取引きする会社であり、生活者の目に触れる機会も多くあります。かたや、法人向けに商品やサービスを提供する会社は、いわば「裏方」であり、我々生活者は多くの場合その名前さえ知りません。今回、コンシャス・キャピタリズム・カンファレンスに参加して、そんな稀有な会社に出会う幸運な機会をいただきました。

その名も、「ボナペティ・マネジメント・カンパニー(以下ボナペティと呼ぶ)」という、企業の社員食堂や大学の学食、美術館のレストランなどを運営する法人向けフード・サービス会社です。米『ファースト・カンパニー』誌が毎年発表する「世界で最も革新的な企業」ランキングの食品カテゴリーでも、今年8位に選ばれています。「サステナビリティ(持続可能性)」をキーワードに文字通り無数の輝かしい功績をもつ会社ですが、今回、創設者兼CEOであるフェデル・バチオ氏のスピーチを聴いて、この会社の魅力を思い知らされました。まさに、「会社は人ありき」ということです。

フェデル・バチオ氏

バチオ氏はサンフランシスコ在住のイタリア系アメリカ人。食と人生に対する情熱を体じゅうから発信する、ロマンスグレーの初老のジェントルマンです。同氏が語るところの、ボナペティ創設のストーリーと今日までの歩みを聞いていると、この会社がまさに、私が提唱するところの「未来企業」のモデルであることを強烈に実感させられました。

1. 未来企業は「夢」を基盤としている。

「新鮮で季節感溢れる食材をつかって、食べる人の心と身体を健全に保つ美味しい料理を提供し、『法人向けフードサービス業界』に革命をもたらす」。1987年の設立以来、ボナペティはこの夢の実現に向けての一途な想いのもとに経営されてきました。当時、企業や大学の「カフェテリア・フード」といえば、冷凍食品や缶詰というのが相場でした。同じ「フードサービス」とはいっても、一般のレストランに食材を提供する大手会社に働いていたバチオ氏は、法人向けフードサービス業界の無残な現状に一石を投じたい、投じることができるはずだと確信したのです。

2. 未来企業は「共に夢を見る」。

「ひとりで見る夢は夢にすぎないが、みんなで夢をみれば現実になる」

スピーチの冒頭でバチオ氏はこの言葉を引用していました。かのジョン・レノンとオノ・ヨーコの言葉だそうです。

先に述べた「新鮮で季節感溢れる食材をつかって、食べる人の心と身体を健全に保つ美味しい料理を提供する」という夢を実現するためには、一流シェフを起用することがカギになるとバチオ氏は知っていました。しかし、シェフの腕前が脚光を浴び易い、華々しいレストラン業界に比べて、企業や大学のキッチンで働く法人向けフードサービス業界は地味なもの。有能な人材を確保する上で、これが厳しいハードルになりました。

なかなか首を縦に振らないシェフたちを説得するため、バチオ氏はこう約束しました。

「すべての意思決定権を君たちに託す。農場に自ら赴いて、最高の食材を仕入れて、何でも思うものを調理してほしい」。

シェフであれば誰でも、いずれは自分のレストランを持ちたいと望んでいるもの。会社としての夢と従業員の夢を一致させ、また個々人の夢を支援することにより、バチオ氏は、「愛情と信頼で結ばれている文化」を築くことに成功したのです。

3. 未来企業は「情熱」を原動力とする。

今でこそ、「サステナビリティ」を旗印にして知られているボナペティですが、初めからそうだったわけではなかったそうです。

むしろ、「美味しい食事を提供したい」という切なる願いが、「最も味覚に富んだ食材を仕入れたい」という想いにつながり、ならば、より新鮮な食材が手に入る、地元の農場から調達しようという行動につながったのです。1999年、「地産地消」などという言葉がまだファッショナブルになる以前から、ボナペティでは、シェフが自ら出向き、地元の農場を厳選して仕入れるという活動を始めました

こうして、地元の農場から仕入れるという試みが発端となって、ビジネスとして、地域コミュニティや環境保全に役立つことをするためにはどうすべきか、を考えるようになったのだといいます。そして、それはいつしか、「法人向けのフードサービス業界で、他社がお手本にできるようなサステナブルな(環境に配慮した)ビジネスのモデルを創りたい」というビジョンに変わっていきました。

設立から25年、環境や動物愛護、人権擁護など多岐にわたる分野におけるボナペティの功績は枚挙にいとまがありません。しかし、何より、私の心に残ったのは、バチオ氏の次の言葉です。

「大きくならなくてもいい。規模は小さくても、宝石のように特別な会社をつくることができれば」

現在、ボナペティはグーグル、アマゾン、スターバックス、ツイッター、ヤフーなど、全米37州の有名企業や大学、美術館にサービスを提供し、年商10億ドルに手が届かんばかりの大企業に成長しています。しかし、その発端は、売上や利益に近視眼的なフォーカスを置くのではなく、社会にインパクトを与える、大きな「夢」を一途に追求するところから始まっているのです。

「規模は小さくてもよい。しかし、目的に忠実に、筋を通し、本質を追求していく」。そんな会社が増えれば、世の中はもっと希望に溢れた、住みやすい場所になるだろうとあらためて思ったのでした。