コア・バリュー経営と戦略的企業文化

サンフランシスコで『ピーク経営』の生みの親、チップ・コンリー氏と共に行ったプログラム、私は、『戦略的企業文化とコア・バリュー経営』というテーマでセミナーを行いました。

企業文化構築の戦略的アプローチ

マズローの欲求階層を企業経営に応用して、従業員、顧客、投資家の「自己実現」を目指すことで、ピーク・パフォーマンスを達成する・・・、『ピーク経営』の考え方と手法は、私が提唱する『戦略的企業文化とコア・バリュー経営』と大いに通じるところがあると思っています。

ザッポスやサウスウエスト航空など、私が「コア・バリュー経営企業」と定義する企業の多くは、「ピーク経営」のプラクティショナーでもありますから、両者の共通性は当然のことなのでしょうが。

私はアメリカで大学院を卒業した70年代の頃から企業文化には興味をもっていたのですが、ザッポスの研究を経て、「次世代の経営の根本は企業文化にあるべき」という確信を得ました。

それも、ただの「企業文化」ではない。「戦略的企業文化」と呼ぶべきだと、私は思っています。

これはどういうことかというと、ただの「企業文化」はどこの会社にでもあるものだからです。しかし、自然発生的に存在する文化がすべて「良い文化」、つまり、会社の使命や事業の実現を後押しする文化や成長に貢献する文化かというと、そうではない。だから、企業の使命やコア・パーパス(存在意義)を出発点として、それにふさわしい文化を設計して、育むことが必要なのです。言い換えれば、「戦略的企業文化」の設計と構築が必要であるということになります。

多くの企業が直面しがちな問題は、「企業文化が重要だ」ということがわかっていても、それをいかにして構築したらいいのか、ということがわかっていないということでしょう。ですから、多くの企業が「ただ何となく」企業文化育成に取り組んでいるという現実があります。また、「企業文化育成」の名のもとに取り組まれている努力の多くが、ごく表層的なものになってしまっています。

「形から入る」という言い回しがありますが、例えば社訓や社是みたいなものを社内の至るところに掲示するとか、オフィスのレイアウトや飾りつけを工夫するとか、いろいろなものに独自の名前をつけてみるとか、そういったことが「表層的な努力」の部類に入るでしょう。

もちろん、「形から入る」ことが悪いといっているわけではありません。「視覚的な表現」というのも、企業文化の重要な構成要素のひとつですから。ただし、私は、戦略的企業文化の構築には次の二つの理解が必要不可欠だと思っています。

1.戦略的な企業文化とは、包括的な仕組みを伴うものである。(それなしには、戦略的なアプローチとはいえない。)
2.戦略的な企業文化は、現場に浸透しないと意味がない。(現場の賛同、参加があってこそ、維持可能な企業文化が生まれる。)

「包括的な仕組み」だから、「視覚的な表現」だけでは不完全なのです。採用、教育や人材の評価など、社内のあらゆる仕組みが企業文化にのっとって組み立てられることが必要になります。すべてにいっぺんに着手しろというわけではありませんが、経営者やプロジェクト・リーダーが、まず全体像を把握しておくことが必至です。

また、「現場への浸透」がなければ、経営者の一人芝居、あるいは押し付けになってしまいます。そんな企業文化は付け焼刃であり、長続きもしなければ、実質的な成果を生むこともありません。

では、どうやって、戦略的な企業文化を現場へ浸透させるか、現場が原動力になり、企業文化を活性化していく、そんな体制を実現するか、その手法であり、ツールであるのが「コア・バリュー経営」なのです。

コア・バリュー経営とは、ごく簡単に言えば、会社のステークホルダーが共有すべき価値観を定め、それを基盤に企業経営の仕組みを組み立て、運営していくことです。

今後、特に、個々の創造性の発揮が差別化の決め手になっていく「サービスの現場」では、コア・バリュー経営が要求されてくると思います。

今回のセミナーでは、コア・バリュー経営の全貌をレイアウトした上で、その基本となる「コア・バリューの定義」について、ごくさわりだけをお話しました。

7月には日本で、戦略的企業文化とコア・バリュー経営に関するセミナーとワークショップ・プログラムを開催しますが、ワークショップではコア・バリュー経営の構成要素をひとつずつ取り上げ、その組み立て方について演習を交えながら皆さんに学んでいただく予定です。