ジョワ・ド・ヴィーヴルに学ぶ、コア・パーパス(存在意義)の力

ピーク経営で有名な伝説のホテル・チェーン、ジョワ・ド・ヴィーヴルを訪問

『働きたい会社』を巡る一週間の旅。

サンフランシスコ

三日目の訪問先は、ジョワ・ド・ヴィーヴルというホテル・チェーンです。『ザッポスの奇跡』の中でも引用されているアメリカの経営書ベストセラー『PEAK(ピーク)』の著者、チップ・コンリー氏が、26歳の時に創業した会社です。

『PEAK経営』は、心理学者マズローの欲求階層に基づき、「人間にとって最も高度な欲求(自己実現)の充足を目指すことで、会社はピーク・パフォーマンスを実現できる」と説きます。例えば、従業員にとって最も高度な欲求とは、働く意義の認識と充足です。コア・バリュー経営の考え方に置き換えていえば、企業が定めるコア・パーパス(社会的存在意義)ということになります。

コア・パーパスと働く意義を実感してもらえる職場づくり

ジョワ・ド・ヴィーヴルのコア・パーパスは、『人生の喜び(ジョワ・ド・ヴィーヴル)を謳歌する好機の創造』

『PEAK経営』の考え方に基づき、社員に「働く意義」を実感してもらえる職場づくりをモットーとしています。

今回は、この「社員に会社のコア・パーパスと働く意義を実感してもらえる職場づくり」がどうやって実践されているのか、そこを知りたくて、ピープル・サービス部門(同社では人事部のことをこう呼びます)のディレクター、キンバリー・バンクスさんにお話を聞きました。

「社員は誰でも、お客様を喜ばせたいという情熱と、それを実現する創造力をもっています。リーダーがやるべきことは、その情熱や創造力が発揮されるような環境をつくり、邪魔をしないこと」と、バンクスさんは語ります。

コア・パーパスの実践を促すドリームメーカー・プログラム

セッションの最中に、バンクスさんの部下であるメーガンさんがディスカッションに参加してくれました。メーガンさんは現在は本社で働いていますが、かつては現場(ホテル)で、予約係を務めていた人です。

そのメーガンさんに、ジョワ・ド・ヴィーヴルの制度のひとつである『ドリームメーカー・プログラム』について伺ったのですが、これがとても勉強になりました。

『ドリームメーカー・プログラム』とは、ジョワ・ド・ヴィーヴルの現場で働いている社員たちが、『お客様の夢をかなえる』ための創造性を発揮できるように発案されたプログラムです。社員たちがジョワ・ド・ヴィーヴルのコア・パーパスをより身近に感じ、実践することを促すために非常に有効な制度だと思います。

社員たちは、フロント・スタッフや客室係など、職務の区別を問わず、週に1度は何らかの「ドリームメーカー・プロジェクト」を遂行するように奨励されています。

顧客との触れ合いを通して、「隠れたニーズ」を探る

具体的には、顧客との会話や触れ合いを通して、「隠れたニーズ」を見つけ、顧客を喜ばせるようなサプライズを企画し、遂行することです。例えば、結婚20周年をお祝いするカップルのために、今から20年前に何が起こったのかをリサーチした上で、時事やポップ・カルチャーからの場面を取り入れたスクラップブックを作成してプレゼントするとか、そういったプロジェクトのことを指します。

「ドリームメーカー・プロジェクト」1件あたりの予算は30ドル程度(かっちり決まっているわけではなく、融通がきくらしい)。予算のほかに気になるのは 時間ですが、スクラップブック作成のように時間のかかる作業の場合でも、勤務時間中に自由に取り組むことができるそうです。

予約係だったメーガンさんは、直属の上司に少なくとも週に1、2回はドリームメーカー・プロジェクトを遂行することを奨励されて、一カ月に一度、ジョワ・ ド・ヴィーヴル全社員3,000人の中から1人を選んで与えられる「ベスト・ドリームメーカー賞」を受賞したこともあるらしいです。こういった報奨の仕組みも、社員にとってはより励みになり、会社のコア・パーパスを実践するためのインセンティブになるでしょうね。

顧客の「人生の喜び」を倍増する-ジョワ・ド・ヴィーヴルのコア・パーパス

顧客とホテルの最初の接点である予約係は、顧客の「隠れたニーズ」を探り出し、プロジェクトを創出する上で格好のポジションにあるといえます。顧客がどん な境遇の人なのか、どういった目的でホテルに滞在するのか・・・、気のおけないフレンドリーな会話を通して一人ひとりの顧客を知り、「どんなことを提供す れば顧客の『人生の喜び』を倍増してあげられるのか」、創意工夫を凝らします。

「ベスト・ドリームメーカー」として、あなたがその才能を発揮できた要因は?という質問に対して返ってきたメーガンさんの答えは、以下のようなものでした。

  • 直属の上司が、会社の期待(「お客様が『人生の喜び』を謳歌できる機会を創造する」という企業使命)を日々、明確に伝えてくれた
  • 仕事を遂行するためのリソースを十分に確保してくれた
  • 良い仕事をするたびに、公的にも私的にも称賛の言葉を惜しまず、労をねぎらってくれた
  • 自分を信頼し、創造力を発揮して行動する自由を与えてくれた

簡単なようでいて、私たちが忘れがちな大切なことをメーガンさんの答えは思い出させてくれました。会社のコア・パーパスとは、働く人の一人ひとりに大きな力を与え、喜びを与えてくれるものですね。また、そのような制度があるばかりではなく、それを積極的に支援する人の存在がとても大きいことも、メーガンさんのお話から学ぶことができました。「ジョワ・ド・ヴィーヴル流『個』を活かす上司術」の一片を捉えることができた一瞬でした。

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