アメリカのオンライン教育事情にみる、新しい時代の差別化戦略

GE(ゼネラル・エレクトリック)社元会長兼CEOのジャック・ウェルチに因んだ「ジャック・ウェルチMBAプログラム」が設立され、アメリカではちょっとした注目を集めている。

「伝説の経営者」と呼ばれるジャック・ウェルチが名前を貸すMBAプログラム、というだけでも話題性充分だが、なんとこれが従来型の大学ではなく、オンライン・プログラムである、という事実も、話題騒然の一因になっている。

つい最近まで、オンライン教育には、「質の面で信頼性に欠ける」という悪いイメージがあった。しかし、かのジャック・ウェルチが太鼓判を押したとなれば、このプログラムはもちろん、オンライン教育全般にとっても、ポジティブな認知の強化につながることは疑いない。

ウォール・ストリート的視点で見ても、近年、オンライン教育のもたらす多大なビジネス好機が注目されてきている。アメリカ最大の私立大学であるユニバーシティ・オブ・フェニックスは、オンライン大学の先駆的存在だが、現在の売上は3,140億円規模、年率10%から15%の割合で成長している。運営会社のアポロ・グループは、一株あたり株価65ドル程度をキープしており、株式市場における評価の高さが伺われる。

アポロ・グループの成功に追随するかのように、新しいオンライン大学も次々と設立されている。特に興味深いのは、経営難にある従来型大学を買収し、オンライン化して株式上場にまでもっていくという、いわば「大学再建ビジネス」が増えていることだ。先に述べた「ジャック・ウェルチMBA」をもつチャンセラー大学もこのひとつで、実は、ジャック・ウェルチも、プログラムに自分の名前を貸すばかりではなく、同大学の運営会社に約2億円を投資している。

日本でも同様かと思うが、アメリカでは、公立、私立を問わず多くの大学が経営難にあえいでいる。コスト削減のために、生徒がクラスルームに会して、先生の講義を聴くという従来型の授業を止め、オンラインに切り替える大学も増えてきているという。さらに面白いのは、複数の大学が、共通のプログラム・コンテントを共有するという仕組みだ。州立大学が結託して、共通のコースをオンラインで提供するという試みも始まっている。これが定着すれば、学生は、複数の大学でアラカルト式に授業を受けつつ、学位は自分の「所属大学」から貰う、という構図が当たり前になってくるかもしれない。

そうなった時、学生はどういった点に着目して、「所属大学」を選ぶのか。ひとつには、群を抜く特殊性や強み、ということがあるだろう。ビジネス・スクールならハーバード大学、農学ならコーネル大学という具合にだ。

また、アドバイザリー機能の充実、という点も見落とせない。講義はどこで受けてもよい、ということになれば、生徒が気にするのは大学教育における自分のゴールや、キャリア上の目標に向けてどんなアドバイスをくれるか、ということになってくるだろう。生徒ひとり、ひとりの目的を理解した上で、どの大学から、どんな講義をとったらよいのか、あるいは、どんなキャリアが自分に適していて、どのような就職活動を行ったらよいのか、的確かつ親身なアドバイスを提供できる大学こそが、学生の支持を集め、新しい時代に生き残ることができるだろう。

「教育」という枠組みでお話ししてきたが、同様な動きは流通市場にも起こっている。「モノ」であればどこからでも買える時代に、「どんなモノを売るのか」がもはや差別化の条件としては不十分であることを、経営者は肝に銘じなくてはならない。むしろ、顧客が必要としているのは、「自分の目的をどのように達成できるか」に関するアドバイスだ。あくまで、顧客の視点に立って、必要とあらば他社からの購入を勧めたり、時と場合によっては、購入せずに済ませる方法を提案したりするコンサル能力が求められているといえる。セールスが、「販売のプロ」ではなく、「購買のプロ」にならねばならぬ所以がここにある。