月刊『コンピューターテレフォニー』: ロイヤルティ基準から人材マネジメントまで ザッポスに見る「コンシェルジェ」の秘訣

コンピューターテレフォニー、ザッポスに見る「コンシェルジェ」の秘訣従来、不可能とされていた靴のネット通販を皮切りに成功を収め、米国を代表するEC企業となったザッポス。コンタクトセンターにおける数々の顧客対応エピソードはもはや“伝説”として語り継がれており、まさに電話におけるコンシェルジェ対応の最たる事例といえる。「ザッポスの奇跡」の著者である石塚しのぶ氏にその秘訣の一部を聞いた。

ザッポスのカスタマーサービスは、アクセスしてくる顧客への対応を「新規/既存/得意先」などで差別しません。先進的とされるCRM実践企業は、むしろ顧客をセグメントしてサービスレベルに差をつけますが、ザッポスは「買ってくれる生活者(消費者)だけが顧客ではない」という考え方に基づいてコンタクトセンターでも対応します。つまり、顧客ロイヤルティの解釈が根本的に異なるのです。

結果的に、こうしたポリシーに基づいた対応がざまざまな“伝説”を生み、ファンを醸成し、インターネットを中心とした口コミによってその評価が急速に拡散したのです。

TwitterやFacebookなど、ソーシャルメディアの普及は『生活者主導の時代』を招きました。すべての生活者が自らの主張を表現する時代となった以上、コンタクトセンターもこれまでのコミュニケーション方法を考え直す時期だと思います。

例えば、コンタクトセンターに電話をかけてきた生活者にとって、対応するスタッフは、その会社の企業文化を体現する存在のはず。そこでマニュアル棒読みの機械的な対応をされたら、どう感じるでしょうか? スタッフは、企業の代表として、しかも自分の言葉で対応することが要求されますが、そのためには現場への権限委譲が欠かせない要素となります。

ザッポスでは、社員全員が持つべき価値基準を「コア・バリュー」と呼び、公私の区別なく意識することを求められます。コンタクトセンターのスタッフを含む個々の社員には大きな権限が与えられており、決断を求められたときに立ち返るべき価値観といえるでしょう。コンタクトセンターのスタッフは、決して高額な報酬ではありませんが、それでも高いモチベーションを維持できているのは、こうした価値基準と与えられた権限がその源となっているのではないでしょうか。

権限を持たせるには、慎重な人材採用が求められます。同社でも、かつて派遣モデルだったものを自社採用に切り替え、コア・バリューを体現できる人材を厳選しています。入社後に「向いていない」と判断された場合、会社がボーナスを払って退職を促す制度を設けているほどです。そうした意味では、真のコンシェルジェ対応を実現するには、実は「採用」こそがスタート地点といえるかもしれません。

*本記事は月刊『コンピューターテレフォニー』(No.150, Jul 2011)に掲載されました。
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