業界紙『日本ネット経済新聞』:「企業文化」の重要性を聞く: 企業の価値観、行動指針を明確に

個を生かせる職場作り

―「企業文化」とはどういうものですか。
「言い換えれば、会社の構成員が共有する価値観や行動指針を基盤とした『在り方』です。企業はどういう考えでビジネスを行い、スタッフは何に重きを置いて働くのか。このことを明確かつ強固なものにすることが非常に重要だと考えています」

>―なぜ価値観や行動指針を明確にすることが重要なのでしょうか。
「価値観や行動指針は、スタッフ全員が共通の方向性を持ち、個々の人間力を生かして働くためのベースになるものです。多くの企業は上下関係を明確にし、仕事上のルールを規定することで企業内での統制を図っています。しかし、トップダウンの組織体制では、市場のニーズに応えることができない時代になっています。これは、製造、流通業においても、サービス業においても同様です。ビジネスは意思決定の連続です。スタッフ一人ひとりが自分の頭脳や感性をフル活用して意思決定に参加する体制でなければ、もはや顧客を満足させることはできません。そこで『スタッフ全員が参加できる環境づくり』が経営者やリーダーの仕事となります。その基盤となるのが価値観や行動指針なのです。企業の事業目的を見極め、その達成を後押しする『戦略的な企業文化』を作り込むことが大切です」

「企業文化」は作り込む

インタビュー: 企業文化の重要性を聞く

―「企業文化」の作り込みですか。
「『企業文化』はどの会社にもある、という人もいますが、自然に生まれる企業文化がすべて『望ましい文化』かというとそうではありません。だからこそ、『戦略的な企業文化』を作り込み、育てていくことが重要です。企業のトップのコミットメントが必要です。日本は単一民族国家ということもあり、かつては、国民全体の価値観が統一されていました。『国の文化=企業文化』とみなされ、企業文化の構築に力が注がれてこなかった。しかし、時代は変わり、価値観の多様化が起こっています。そのような中で、個々の能力を活かしながら、組織としての結束を高める『企業文化』が注目されてきているというわけです」

採用、人事評価も変革

―「企業文化」はどのように作っていくのですか。
「まず、価値観や行動指針を成文化すること。そして、それに基づく仕組みをつくり組織内に浸透させていくことが必要です。例えば、米ネット通販会社のザッポスでは価値観を基盤とした採用、教育、人事評価などあらゆる仕組みを築き、実践しています」

―「企業文化」を重視している企業は。
「例えば、先ほどからお話してきているザッポスです。ザッポスでは『顧客にWOW!(感動)のサービスを届ける』など10のコア・バリューを掲げ、スタッフ全員がそれに基づいて業務にあたっています。採用に際しても、カルチャー・フィット(文化適性)を優先し、どんなに立派な経歴やスキルを持っていても、コア・バリューとの相性が悪ければ採用されません。また、コンタクト・センターにおいても、売上ノルマなどは一切なく、『WOW!を提供できたかどうか』で評価されます。価値観の統一を図ることにより、規則で縛る紋切り型のサービスではなく、個々の顧客の事情やニーズに即したクリエイティブなサービスを実現している。これが、ザッポスが、商品価格は決して安くないのに、生活者の熱烈な支持を受けているゆえんです」
「フェイスブックも『ザ・ハッカー・ウェイ』という明確な企業文化をもった会社です。『社会へのインパクト』、『スピーディーな実践』などの価値観が彼らの意思決定のベースとなっています」

―米国では「企業文化」を重視している企業が多いのですか。
「企業文化に取り組んでいるのはネット企業だけではなく、様々な業界や業種に及んでいます。例えばサウスウエスト航空も『企業文化』で有名な企業の一つですが、そのコア・バリューである『FUN(楽しさ)』が、機内で客室乗務員が歌ったり、ジョークを飛ばしたりする伝説のサービスの源になっています」
「米国では近年、『戦略的企業文化の構築』が最優先の経営課題になりつつあります。過去20年ほど、米国企業は市場拡張、グローバル戦略といった『外向きの戦略』にフォーカスをおいてきましたが、世界的な大不況を引き金として、『内向きの戦略』に焦点が移ってきています。もとより、戦略を遂行するのは人。ならば、企業を構成する一人一人から最高の成果を引き出すためには組織がどうあるべきか、という問いかけがその基盤になっています。そこで、個が力を発揮できる職場づくり、共同体としての会社、スタッフがハッピーになれる環境づくりなどの目標が真剣に取り組まれるようになったわけです。目標自体はソフトに見えますが、その根底にあるのは、『戦略的企業文化の構築』というハードな仕組み(プラットフォーム)づくり。スタッフ全員が参加できる環境をつくるのが21世紀の経営者にとって最も重要な仕事になっていると思います」

*本記事は、日本流通産業新聞社様による弊社代表石塚へのインタビューを基に作成され、『日本ネット経済新聞』(2012年5月10日発行)に掲載されました。