業界紙 『日本ネット経済新聞』: ネット通販の新焦点: 「人要らず」から「人次第」へ

日本流通産業新聞2012年2月1日、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の世界最大手、フェイスブックが新規株式公開を申請した。1,000億㌦とも見込まれている株式時価総額、50億㌦の資金調達目標額など、巨額な数値に興奮が集まる傍らで、フェイスブックの企業使命や思想について述べた最高経営責任者マーク・ザッカーバーグの手紙は、日本語にも訳されて話題を呼んだ。

その文面の約半分を費やし、ザッカーバーグは、「ザ・ハッカー・ウェイ」と称する企業文化の重要性について述べている。そればかりではなく、同じく上場申請書の「リスク要因」のセクションでは、「スピーディーな実践」を重んじ、「短期的利益に目を向けない」という企業文化があだになる恐れもあると注意を促してもいる。

かのピーター・ドラッカーは「企業文化は戦略を朝飯に食らう(企業文化は戦略に勝る)」と言った。どんなに優れた戦略を講じたところで、企業文化がしっかりしていなければ実践できない。計画倒れに終わってしまうということである。

分かりきったことかもしれないが、戦略を遂行するのは「人」であり、「人」を生かすか殺すかは企業文化次第である。だから、企業文化が経営戦略の基盤であるべきだ。しかし、つい最近まで、企業文化」で取り沙汰されるのはリッツ・カールトンやディズニーなどのホスピタリティー業。ネット通販業が話題にされることはまずなかった。

特にネット通販初期には、その争点は「便宜性」だと考えられてきたからだ。買い手にしてみれば「店舗に行かずしてモノが買える」こと、そして売り手にしてみれば、「人による接客を必要としない低コスト・モデル」が利点とされたりした。しかし、「ネットで買う」ことが当たり前となった今、「ネットだから人が要らない」のではなく、むしろその反対だということが立証されてきている。

近年の米ネット通販業界で「人」を生かす戦略で頭角を表してきたのは、靴やアパレルなどを主力商品とする米ネット通販業者、ザッポスである。09年11月にアマゾンの傘下に入ったが、創設から10年足らずで年商10億㌦を達成し、近年の不況をものともせず年率20%超の成長を続けているとうわさされる。

ザッポスの特徴は型破りなカスタマー・サービスだ。「顧客との個別かつ感情的なつながり」をモットーとする接客にはスクリプトがなく、オペレーターの個性を十二分に発揮させる。そして、顧客を満足させるためなら何時間を費やしてもよい(最高記録は8時間)。そのザッポスは、最大の財産は企業文化であるという。

今日、ネット通販が「人要らず」というのは幻想であり、むしろ「人次第」のビジネスであることは明らかだ。人が介在しないという前提でつくられたモデルだからこそ、人臭さを出すことに差別化の糸口がある。「社員」というタイルでモザイクを描くと、会社のペルソナが浮き出てくるのが理想だが、そのためには、企業文化の樹立が最大の経営課題となってくるわけである。

*本記事は『日本ネット経済新聞』(2012年3月1日)に掲載されました。